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周吾が案内したのは、海のそばの美味しい食事が出来るお店や雑貨店などだった。
外から店を眺めながら、二人はゆっくり並んで歩く。周吾が歩幅を合わせてくれているのがわかり、那津はなんだか胸のあたりがむず痒くなる。
「この辺りは、ここの雰囲気が気に入って他県から移住してきた人の店が多いんだ。サーファーとかダイビングが好きな人とかいろいろね。お陰で観光客も増えて、那津さんみたいな人も来てくれるようになった」
「私みたいな人?」
「そう、一人旅の女性とかね」
那津自身も、いつか来たいと思っていた場所だったからよくわかる。だからだろうか。どこかに逃げたいと思った時に、真っ先にここが頭に浮かんだのだ。
「ふーん……じゃあこうやって声かけるのも慣れてるのね……」
那津が呟くと、周吾は顔を引き攣らせ苦笑いをした。
「……本当に俺を軽い男だって決めつけてるよね」
「じゃなきゃあんなに簡単に話しかけたりしないでしょ?」
「那津さんを心配しただけなのになぁ……そんなに警戒心が強いってことは、もしかしてさ、彼氏に浮気されたとか?」
ビクッと震えて俯いた那津を見て、周吾は確信したように頷いた。
「正解だ。社内恋愛で浮気ってことは……まさか相手は同僚?」
「……」
「それなら仕事に行きたくないのも頷ける」
「瀧本さんには関係ないでしょ。次にその話をしたら帰るから」
「話せばスッキリするかもしれないのに」
「……帰る」
「ごめんごめん! もう何も聞きません」
プイッとそっぽを向いた那津に、周吾は焦ったように両手を合わせて頭を下げる。素直に謝る周吾に、那津は好感を抱き始めていた。
悪い人ではないみたい……でも人は見かけによらないし、まだ心を開くのは早すぎる気がする。
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