猫レッテル

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 あーもうこの時間か。朝6時になるとうちの猫マメはご飯のおねだりをする。大きな声でニャーニャー鳴きねだるのだ。  「わかったからマメ」と言いながらマメを見るとさっきまであったはずの眠気が一気に醒めた。マメの頭の上に文字が浮いている。「はよごはん」と書いてあった。不思議に思いながらもマメにご飯をあげると頭の上の文字が変わった。「ご苦労」だった。コイツ私のこと下に見てるな。  どうやらこの文字は私以外には見えないらしい。家族はマメを見ても不思議な顔をしないからだ。父がマメを撫でると「もういいです」という文字が表れ、母がマメを撫でようとすると「触んな」と表れた。まあ明日になればこの変な文字は消えるだろと思い1日を過ごした。  翌日、マメを見ると変な文字は無くなっていた。その代わりなのか私の腕に「2位」と書かれたシールみたいなものが付いた。これを剥がそうとしたが全然剥がれない。家族全員にその順位の書かれたシールが貼られていた。私はレッテルのことなど気にかけないようにして予備校へ向かった。ちなみに私は浪人生だ。  私には余裕がない。来年の春に大学生になりたいから必死に勉強している。要領と覚えが悪いからか成績が一向に伸びない。不合格だった時のショックをもう味わいたくないから私は今日も自分の脳に鞭を打つ。二週間後には模試が控えている。今度こそ結果を残そうと私は必死に勉強する。   考えることすら面倒になるくらい疲れた。重い足をなんとか動かして家に帰った。お風呂に入り、パジャマに着替えベッドに入ろうとしたところ私の腕に何かがくっついた感覚がした。シールがまた貼られていた。シールには「余裕が無さそう」と書かれていた。今度は太もも辺りにシールが貼られる感覚がした。「気を張りすぎなやつ」「やり方を少しもずらさないやつ」などなど  悔しさか情けなさか悲しいのか私はボロボロと泣いた。わかってる。私は要領も覚えも悪いから現役で受からなかった。私はただただマメを睨みつけた。すると目の前にレッテルが現れた。また私を貶すつもりかと思い手の甲についたレッテルを意地でも見ずに枕を濡らしながら寝た。  今朝は6時より遅く起きた。マメのご飯は父が用意してくれた。早く顔を洗わないと電車に間に合わない。顔を洗うということは必ず自分の手を見ないといけない。嫌だなと思いながらも私は洗面所へ足を運んだ。蛇口から水を出し手で掬おうとした瞬間、私はレッテルをまじまじと見た。「泣くくらい元気があるやつ」皮肉が効いているのはわかっているけど昨日見たやつよりはマシだと思った。ニャンと鳴き声が聞こえ足元を見るとマメがいた。  「ねぇ、マメ。今の私どう見える?」 くるぶしにレッテルが貼られた。「疲れ果ててるヤバいやつ」と書かれていた。今まで休むという単純なことに気付けなかった愚かさとこの後どうすればいいのかがわかった喜びが混ざり合って思わず笑ってしまった。 (よし、今日は自習室行かないで本屋に行こう。)  あとは行動するだけだった。本屋に行き勉強法の本とメンタルを強くする本を買い、駅のベンチで読んだ。参考書以外の本を読んだのは久しぶりだった。集中していたからかすぐに2冊とも読み終えた。とても楽しかった。家に帰り早速本に書いてあったことを実行した。  本の通りに計画を立て、苦手を潰し得意を伸ばしつつ筋トレをして精神を鍛える。たったこれだけを継続したおかげで模試でいい成績を出し心に余裕ができた。もう私にはレッテルが見えない。マメの思っていることも目には見えない。あれは一体何だったのだろうか。マメには特別な力があるのだろうか。だとしたら私はマメに一生頭が上がらない。マメのおかげで今の私がある。マメに感謝しつつ今日も私は予備校で勉強する。来年の春にキャンパスライフを送るために。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加