侍女Aと面倒な仕事

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侍女Aと面倒な仕事 〜後編〜 パーティ当日。 会場である、ウェンテール国中央都市クスルムの兄貴の別荘に私は突っ立っていた。 侍女のフルクティクルスとしてでは無くアーテル国王として。 まぁ、そうなんだが。 明らかに異様な程ゲストに避けられているんだが何故だ? 王としての私のキャラは暴君で通っている。 まさにイッツ織田信長。気に入らない奴には厳しく、気に入っている奴には優しい。 このキャラは、前世で見ていたアニメに出てきた暴君の王様を真似したものである。 ちょっとやってみたかったのだ、国王の椅子にふんぞり返ってアレコレ命令するの。 それに王様ってどんなキャラなん?と思っていた当時五歳の私は見様見真似でやってみたのである。 そうしたら、そのキャラが部下らに伝わり国外に伝わり、最終的に国外で耳にした私のキャラが『気に入らない奴は切り捨て、人を殺す事で王座に座っている様な血まみれのとんでもない暴君だが、民には優しい。』である。 なにそれ。私、そんなに暴君暴君してないよ? 血まみれって何?怖いんだけど。 確かに、国が荒れていたから、その根源となる腐りきった貴族らを処刑…..追放とかしたけども。 身分制度の全般廃止で、私以外が身分的権力を持てない様にしたけども。 こんなに避けられるのは悲しいな……….. 私、無害です。前世普通の女子中学生だって。 おーい? こう言った社交会の場で、私の様な権力を持った者は大体、繋がりを持つために人がゴマすりをしながら近づいてくる様なものである。 なのに来ないって事は、”近づいたら駄目な奴”、”繋がりを持つ方がリスクがある奴”と認識されているのも同然であるのだ。 仕方がないので、給仕に声をかけて飲み物のグラスをとってきて貰った。 その給仕もめちゃくちゃ怯えてたんだけど? わーーひどいなーみんな。 会場を見渡すと、目が合った奴が明らかに逃げていく。 八つ当たりに主役の長男に遠回しに愚痴ろうかと思えばまだ来ていない様だった。 会場にはゲストが全員揃っている。 普通、入場は身分が低い者から先なので、私もかなり後の方に入ってきたのだがまだ来てないと言う事は、それだけ長男の身分が高い事を表しているのだろうか。 広い、体育館3個分くらいありそうな会場には御馳走が並べられたテーブルに、ワインやら飲み物を持った給仕が飛び交っている。 奥には、有名な音楽団が控えており優雅な音楽が流れていた。 ダンスを楽しむ者から談笑する者、ご馳走を食べる者と様々だ。 給仕が炭酸ジュースが入ったグラスを持ってきたので受け取る。 パチッと弾けるこの味は、コーラだ。 グラスを傾けて飲むと、甘い茶色っぽい液体が、喉を潤した。 どうしても飲みたくて、私が持っている前世の記憶を頑張って思い出し開発した物だ。 あと、コレの発明には私のスキルを使った。 スキルは良く、異世界転生物のラノベで出てきたが、この世界にもあるらしい。 他にもステータスと言う機能があった。 この世界の人々、生き物には魔力蓄積器官、魔力返還器官、魔力固定化器官、魔力表示器官が、備わっている。 表示器官がいわゆるステータス、固定器官が魔力を自身の願いに変えたキーワード式永遠魔素変換器官:スキルである。 スキルは、魔力が無くても使える。 この世界には、キーワードとして演唱式魔術があるが、それの魂に刻み込まれた進化バージョン、頭の中で、そのキーワードを思い浮かべるだけで使用できるのがスキルである。 スキルは、魔力ではなく魔素その物を使うので魔力を使えなくても使える。 だが、人によって使えるスキルの数や種類は違うのでスキルその物の実態はまだ分かっていない。 とまぁ、そんな感じでコーラを飲みながら周りを見渡していると、私の副官がやってきた。 一人同行人を連れてきて良いとあったから連れて来たのだ。財務団長のエリオスである。 近くにあったテーブルに、空になったグラスを置く。 持ってても邪魔だしね。 「陛下、ここにおられたのですか。にしてもいやはや凄いですね、このパーティは。彼処にいる者は、旅芸人のリシャですよ。世界的歌姫として有名な。陛下はこのパーティ人材探しに来られたのかと思いましたが、その割には声を掛けないんですね。」 「凄いのは当たり前であろう。 我がコレに出席したのは兄上に呼ばれたからだ。その他に用はない。 それに、我の周りにいる者らは余り関わり合いを持ちたくない様なのでな。」 ちょっぴり愚痴る。 不満気に周りを見たら、睨まれたと勘違いされたのか知らないが皆顔を青くしていた。 違うよ? 「まぁ、そんな事を言わずに。私はそろそろ彼方の食事コーナーでも見て参りますね。この国の特産品をふんだんに使ったとかなんだとか。それでは。」 食べに行っちったよ、エリオス。 私も行こうかな、食事コーナー。こんなご馳走食べる機会早々ないしね。 そんな時だった、誰かが私に近づいてくる。 えーと確かこの人は、北の地方にある国セグンド国キエース公爵だったけな? 正義感が強く、面倒くさい頑固者で有名だったっけ? 「どうも、お初にお目にかかります陛下。私はキエースと申します。」 「キエース公か。何か我に用でも?」 「はい、先程の副官の態度に対し些か申し上げたい事が。いくらこの様な場とは言えど主を置いて食事を取るなどとの行為は控えさせるべきなのではないでしょうか。此処はウェンテール国であらせますよ。」 いちゃもん付けにきたクレーマーかい! 私相手によくきたなぁ。返り討ちにしてやんよ! まぁ、でも確かにね、控えさせるべきなんだろう。ウェンテール国はウチとは違ってバリバリの身分制度があるから、それに従うのがマナーってやつだ。 でもね。彼は私に仕えていないんだよ。 この場に来ている彼は、あくまで私の同行人。 なぜなら、ウチの国は……. ふっと笑みを浮かべる。 「それは出来ぬな。」 「何故でありますか?この会場で其れを許容するのは、兄君の名にこれ以上傷を付ける事になりますよ?」 彼は身分制度を廃止した事も絡めて言っているのだろう。 長男の国を囲む兄妹達の国は長男の国の属国の様にとらえられる事が暫しある。 確かに私以外は兄貴に忠誠を誓い、まるでこの国の属国かの様に振る舞う事があるが、ウチは違うで。 だから、兄貴に気を使う必要はないんだ。 「何故なら我に彼奴は仕えていないからだが?」 「はっ?」 「奴は誰にも仕えていないぞ。」 「それは、どう言う事で….?」 「身分制度は廃止した。であるから、雇っているか雇われているかぐらいしか関わりはないし、其処に忠誠と言う疑念は無い。 全ての民が国に雇われており、税金を納めると言う仕事をこなす代わりに国は国の為に税を使った公共施設だのを給料として提供する。仕事をこなさない奴には其れはないがな。その税を使う上が無能ではどうにもなるまいが、民らは税を払うか払わないかの選択権がある。我は王であり、あの国を持っている者だ。其処に住む者達は、我が雇っている。あくまでも、全ての我が国の民と我は平等だと言う条件の元にな。」 息が苦しい。続けて喋ったからだ。 「つまり、彼は陛下の同行人であって配下で無いと。」 「その通り「すみません。」 急に言葉を遮るのはやめて欲しいな。 誰だよって、エリオス君やん。 訂正ってなに?いい感じに丸めこめそうだったのに。 「話の途中申し訳ありません、陛下。危うく、陛下の名に傷を付ける様な行為をしてしまいました。謝罪を。そして、キエース公。公の場である事を弁えず申し訳ありません。」 何謝ってるんか?おーい?エリオス君。 「いやだが、君は陛下に仕えている訳ではないと、同行人だと。謝罪の必要は無いのだが?」 「いえ、雇われていると言う認識を訂正したいのです。 ですので、この場でのルールを控えなかった事に対して謝罪を。 私自身は陛下に仕えていると言う認識で雇われていますので。雇われていると言う事で給料を頂いておりますが、無くて良いぐらいであります。」 えー?君?どうしたん急に? 給料上げろーとか愚痴ってなかった? 仮にも雇ってる私に対して。 「陛下に雇われ約八年。陛下に貧民街で拾われた….いえ雇われた日から、私の命は貴方様に捧げております。」 「は?」 ごめん、いいです。捧げなくて。 「ですので、キエース公、謝罪を受けていただけませんか。」 「あ、あぁわかった。謝罪を受けよう。私も忠誠を誓っている方がいるので君の気持ちは良く受け取った。今度から気を付けて頂ければそれで良い。 それでは失礼します、陛下。」 ねぇ、キエース公爵ちょっと引いてない? そして、残るエリオス君。 めっちゃ気まずい。 でも、さっきのは照れるなー、、 「陛下。」 「なんだ?」 「いえ、普通従者は主の側に控えるのがセオリーだそうですが。」 「はぁ、」 「何処に控えればいいんでしょうか?と言うか控え方が分からないのですがどうすれば..?」 「阿呆。お前に控えられても、仕えられても我は困るだけだ。さっさと食事コーナーでも何でも行ったらどうだ?」 「では、控えてます。」 「そうか。それならば、我は彼処の食事コーナーでも行って貴様の前で食べてやるわ。控えてたら出来ないだろう。」 ニヤリと笑う。 「では、私は毒見を…….」 「してある料理しか並んでないし、我に毒は効かん。だが……..」 「どうせならば、美味い物を食いたいしな、試食でもしてくれエリオス。」 「はっ!!」 食事コーナーに向かっている途中で、入場口が開く。 どうやら兄貴が会場についたようだ。 天井のシャンデリアは輝きを増し、人々は顔に張り付けた社交用の笑みを一層濃くする。 オレンジ色と紫紺が混ざりあわった夕焼け空は、闇へと飲み込まれ夜が来て。 パーティは本格的に始まりの幕を挙げた。
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