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侍女Aは魔術学園に行く2
そんなこんなで着きました魔術学園!!
いつ見ても惚れ惚れする程大きい煉瓦造りの学園は、学園超えた王宮が何かにしか見えない。
一応、私は王族なので王宮など豪奢かつ巨大な建築物は見慣れているのだが、どうしても前世の感覚が抜けずいつ見ても畏怖してしまう。
学園の設備に金を掛けすぎているのではないかと初めは思っていたのだがまぁ、でもこの学園他国から通っている者や、王族、中々に優秀な人材が集まっているので設備が巨大かつ豊富なのは当然の事なのだろう。
学園は、あんだけ道草を食ったにも関わらずたった今門が開いた所である。
アーチ状に積まれた煉瓦に吸い込まれる様にして黒い鉄格子でできた門は開いてゆく。それはまさに圧巻だった。
門を潜ったその奥には、白い石が敷き詰められ噴水と花々が一直線に延びたコンクリートの道を飾り付ける広場がある。
広場を通り過ぎたその後は玄関とエントランスが、横一列に並んだ四角い建物の口でもあるかの様に開いていた。
その建物へ主様と共に歩いて行く。
すると横から歩いてきた男子生徒が主様の肩を叩いた。
「おはよう、良い朝だねアリフレッド。」
その男子生徒は私も良く知っている。
主様のご友人であり、側近として仕えるかも知れないこの国の王太子ウェルフ様である。
主様がそれにより立ち止まったので私も足を止め、軽く殿下に会釈をし後ろにさがる。
主様のバックを握る手を体の中心に添えて、お二人方の会話に耳を傾けた。
「殿下、おはようございます。たしかに良い朝ですね。」
「嫌だな、アリフレッド。僕と君の仲だ、学園では身分も関係無いのだし敬語で無くて良いんだよ?」
「流石にそれはご遠慮させて頂きます。命令と言う事でしたら口調を改めますが?」
主様の言葉に首をすくめる殿下。
「なら、良いよそのままで。」
「そうですか。」
「あ、そう言えば今日は僕の護衛騎士ラザンスが珍しく学園に来ているそうなんだ。アリフレッド、君見かけたかい?」
「いえ、見ていませんが…」
ラザンス様…..様もつけたく無い殿下の護衛騎士はへデラ侯爵家の嫡男だ。
この普通は通えない学園に通っているにも関わらずいつも授業をサボり、鍛錬ばかりしている脳筋である。
だが何故か主様と同じく殿下の側近候補である。
「殿下、おはようございます、珍しくとは酷いですね。最近は学園に通ってますよ。」
後ろから声がすると思えば殿下の護衛騎士だった。
噂をすれば影とはよく言ったものである。
「と言うか、アリフレッド。今日はフルクティクルスの嬢ちゃんなんだな、連れてきてる侍女。」
「おはよう、ラザンス。良くわかるね、そうなんだ今日はクルスについてきてもらっているんだよ。」
「クルスって、誰だ….? あぁ、アリフレッドの後ろにいる侍女か。にしても何故アリフレッドの侍女の名前を君が把握しているんだ?君はあまり他人の名前を覚えるのが得意でないだろう?」
「それは勿論、フルクティクルスの嬢ちゃんが強….」
私は音速でラザンス様の足を蹴った。
主様と殿下には見えなかっただろう。
「〜〜〜いっつうぅぅぅぅ」
「ラザンス?急にどうしたんだ?」
「いや、それはクルスがさっき俺の足を蹴ったから………」
「は?この距離だしアリフレッドの侍女が君を蹴れるわけがないだろう?」
へっざまあ。
「いや、でもそうとしか思えないって言うか..」
この殿下の護衛騎士、何週間か前に主様の影口を叩いていた奴を秘密裏にボコっていた現場にたまたま居合わせていたのだ。
その日から何故か私はコイツにストーキング&一挙一動を見られている。
だから、私が今蹴ったのも良く目を凝らせば見えたんじゃあないかな?
「足でも捻ったんじゃあないか?私の侍女を揶揄うのも程々にして欲しいな。」
「………そうだな。」
恨みがましそうにジト目で私を見る殿下の護衛騎士さん。
「まぁ、今日は精霊召喚の日だ、早く教室に向かうとしよう。」
殿下の一言で、主様と殿下の護衛騎士は歩き始めた。
教室という名の講堂にしか見えない場所で、主様に鞄を渡し教室の端で控えている。
段々と教室には人が増え、全ての席が埋まった。
他にも入ってきた貴族の侍女や侍従が何人か後ろに私と同じく控えた。
教室に講師が入ってきたと思えば此方に向かってくる。
机と椅子を何処からか取り出したと思えば、私達侍女と侍従も一緒に授業を受けろと言う事だった。
ありがとうございます、と礼を言い席に座る。
正直立っているのは辛いので有り難かった。
「さて、今日の授業はだが………」
前の方で講師の方の伸びの良い声が聞こえる。
その声はまるで子守唄の様に私を包み込む。
昨日夜遅くまで、部下から渡された研究資料やら国家予算やら、改革についてのレポートを書いていた私はいつの間にか眠りこけていた。
ーーーーーーとおくのほうでこえがする。
「フルクティクルスさん、起きてくださいあの、貴方の主様が呼んでます…….」
「クルス、クルス、起きて…..もうお昼だよ?」
ーーーー侍女仲間の声と主様の声がする、、
ーーーー今、どこ? 何時だ…? 仕事……
っって はっ….!
ガバッと起き上がると時計は12時を指していた。
「寝ている時に、精霊召喚の儀終わっちゃったよ?」
呆れた様に言う主様。
「す、すみませんアリフレッド様。寝てしまいました…..主人に起こされるなど、侍女失格です………」
首を振って眠気を覚ます。
ふと、机を見れば魔法陣が置いてあった。
「すみません、これは一体….?」
「それは、精霊召喚の儀で使う魔法陣ですよ。講師の方が、私達使用人にもくださったのです。聖水を垂らし、呪文でも唱えれば召喚できますよ。使役の魔術と召喚の呪文は私がメモして置いたので、良ければ空き時間にでもやってみたらどうですか?聖水は魔具店で安価で売っておりますし……..」
侍女仲間、ノアナさんが親切にもメモ用紙を渡してくれた。
ありがとう、後でやってみる。
「それ、危険だから気をつけて使用しなよクルス?失敗すると魔力を失う事もあるそうだし。」
えっ、こっわ……
そうなんですか、主様。
仕方ない、万が一の保険としてウチの(自国の)魔術師団長の前でやるか。
暴君の権力って凄い。
何用で呼び出したのですか? と聞かれたら何用でも貴様を呼び出す事が我は出来るのだが?そんな些末な事を聞くではない。で一件落着なのである。
「分かりました、安全面に配慮して使用します。ノアナさんも、ありがとうございます。」
「それがいいよ。」
席から立ち上がったその後、主様と食堂へ向かう。
貴族は、専用個室でのオーダーができるらしいのだが主様は何故か食堂で食べるのだ。
確か、主様が入学したての頃、私が主様の手を引っ張って食堂で一緒にご飯を食べたのが全ての始まりだった気がするが、気のせいだろう。
朝ご飯と夜ご飯、あんな冷たい空気の中食べたら味がしないわーー味がするメシ食わせてやるからついて来いーーーとどっかの誰かさんが主の前で敬語をが殴り捨てた口調で叫んで食堂に連れて行くと言う無礼を働いていた気がしなくもないが、それも気のせいだろう。
その光景は物珍しく、また主様と食べようと御令嬢方や殿下がやってくるので主様が食べる席の周りには野次馬の人だかりができる。
凄く食べづらい&鬱陶しいので、私が使用したとバレない様にスキル:威圧を軽めに放っておく。
今日も懲りずに来ている野次馬達はスキルを発動した瞬間、顔色が青白くなり散って行った。
偶にその威圧に気づかないくらいの魔力量と度胸をお持ちの野次馬がいるが、大体そう言う野次馬は他国の王族やら講師やら何やらなので放っておく。
席を確保したその後は、主様と一緒に食堂の注文列へと並ぶ。
食堂は私の様な使用人も利用できるので有り難い。
にしてもと、私は前を見た。
一目で貴族とわかる主様が、庶民っぽいお盆を持って列に並んでいるのはかなり違和感があって未だに慣れない。
食堂のおばちゃんも初めは驚いている様子だったが、それに習って御令嬢方や殿下などが並び始めた時ぐらいからあり得ない光景に感覚が麻痺してきたらしく今では主様に対する対応が普通である。
「私は今日B定食食べようかと思うんだけど、クルスは何食べたい?」
「では、A定食で….」
「すみません、A定食とB定食一つずつお願いします。」
注文するのも、使用人の仕事なんだが主様?
ってか頼むから席で待っててくれ主様?
私に仕事をさせてくださいマジで。
これじゃあ給料泥棒になってしまう……
食堂のおばちゃんから定食を受け取り、席に座る。
この向かい側になって座るのも、使用人である私は控えた方がいい。
主人が食べたその後、こっそり昼食を取るのがセオリーなのだ。
「どうしたの?クルス。変な顔して。」
「いえ、なんでもありません。少し考え事をしていただけです。そう言えばアリフレッド様は精霊召喚でどの様な精霊を召喚したのですか?」
「あぁ、私は水のウィンデーネかな?」
「そうなんですか」
「見たければ今召喚する事も可能だけど?」
「流石に今は食堂にいるので。ですが、帰ったら見せて頂いてもよろしいですか?」
「勿論だよ。」
ウィンデーネか……..私は透き通った水色の小人とマーメイドが合体した様な精霊が主様と戯れている姿を思い浮かべる。
うーむ。うん、良き。
「クルス、水今から取ってこようと思うんだけど、クルスの分も取ってくる?」
「はい、お願いしま….」
じゃない、水をとってくるのは私の仕事だ!
ガタン、と椅子から立ち上がる。
「私が行きます。」
「え、でも良いよ、私が行って」
「行かせてください今日は水を汲みに行きたい気分なのですお願いします。」
そこまで言うなら…..と渋々主様が引き下がる。
水の量を聞いて、食堂の真ん中にある給水機まで歩いていった。
備え付けのコップを二個取り出し、給水機に魔力を注ぎ水を出す。
コップの真ん中程まで水を入れ、それを持って席に着こうとすると、主様の隣の席に殿下と殿下の護衛騎士、恋人のラルメシア様らがA定食を食べながら座っていた。
殿下達に一礼し、主様にコップを渡す。
「クルス、さっき殿下達がやって来たんだ。A定食オススメだって言うし、クルスも食べているから今度頼んでみようかな?」
「そうですね、A定食は美味しいですよ、日替わりなので。では、私は今度アリフレッド様が食べていられるB定食を食べてみましょうか。」
「そうだね、お互いに好きな定食を食べ比べするのは面白そうだ。」
クスリと笑う主様。
主様が楽しそうならB定食でもC定食でもなんでも食べ比べてやりますよ!
前世と違って今世は少食だけど。
「アリフレッド、今日は食堂で食べるのだな。昨日は個室だったのに。」
殿下の言葉に頷く主様。
「そうですね、殿下。昨日はクルスでなかったので。」
「ん?侍女によって食べる場所を変えるのか?」
そう言えば昨日ついて行ったのはレイアだ。
レイアは妙な所で真面目だから猛反対したのだろう。
侯爵家の嫡男が食堂で食べるなどなんとかなんちゃら…..みたいな感じかな?
侍女長に最近似て来たんだよな〜レイア。
でも、その割にはドジっ子だし寝坊助って言う…….
「止められるか止められないかの違いですよ殿下。」
大体はそう言う事だな。
止めるべきなんだろうけどな、侍女としては。
「成る程。」
納得した様に頷く殿下。
「ウェルフ様!このパン美味しいです!食堂で食べるのも悪くないですね!」
急に可憐な声が響いたと思えばラルメシア様だった。
ラルメシア様は殿下の肩に擦り寄る様にして座っている。
金色と茶色が混じり合った様な髪に薄紅色の目。庇護欲をそそりそうな小柄な体型と顔立ちは前世で言う乙女ゲーのヒロインの特徴に当てはまっている。
恋人とは言えど、貴族令嬢としてベタベタしすぎでは無いかと思うが、この方はこれが通常運転かつ誰でもこんな感じなので突っ込まないでおく。
それに、この方他の御令嬢方にとんでもない目力で睨まれながら身の振り方を注意されても気にしないぐらい精神タフだからね。
誰が何を言っても多分気にしないし、改めない。
「あぁ、そうだね。」
殿下もベタベタし過ぎだー。
ラルメシア様は恋人ではあるかも知れないけど婚約者候補ではないだろー。
将来どーするんだよ?
「殿下、学園内とは言え流石に…..」
おっ、主様注意したな。
「細かい所でアリフレッドは真面目だな。はぁ、わかったよ。ラル?ごめんね、少し離れてくれるかい?」
「わ、わかりました。すみません…..」
「ラルは、悪く無いから謝らなくて良いよ。アリフレッド、お前も食堂で食べている時点で貴族としての自覚はあるのか?」
「はい。私は、加減と節度、立場を弁えていますよ。」
主様が胸元から何か取り出し、ヒラヒラと音がしたと思えばそれは進言書である。
平民や、身分について考えたいと言う事だの社会勉強だの色んな建前が書かれている紙だ。
講師にこれを進言し、立場を弁えた上での社会勉強として食堂を利用する……と。
流石は主。
抜かりなし、か。
「なっ、だが、侍女と食べているのは…..」
ごめんね、その侍女他国の王様だよ?
立場的にも大丈夫だし、秘密裏に色々手を回したので多少、主に侍女として無礼や使用人としての身分を弁え無い行動をしても大丈夫なのだ。
全ては権力によって握り潰される。
「確かにそれは控えるべきなのでしょうがクルスは……何故か大丈夫なのだそうです。父上と国王様から許可は取りましたし。」
控えるべき…なのはは分かっていますがね。
と言う主様。
大丈夫だよ、主様。
しっかり国王様と、貴方の父上からは脅し…では無く交渉で主様の立場と体面は守っているから。
私が使用人としては終わってるだけで。
「我が父上から許可まで取ったのか…?うーん、僕も父上にラルとの件を進言してみるか。」
えー。ラルメシア様、子爵令嬢じゃん?
掛け合っても婚約者には爵位などの問題でラルメシア様出来ないと思うけどな。
まぁ、いいや。
「そろそろ私とクルスは食べ終わるので、それでは。」
主様が席から立ち上がったので、私も空になった皿を乗せたお盆を持ち立ち上がる。
最後に殿下達に一礼してお盆を皿類の返却ボックスまで持っていて置いた。
「次の授業まで、何分か空いているんだけどクルス、何かする?」
主様にそう尋ねられたので、答えようとした瞬間、地響きの様な音がして身構える。
「アリフレッド様、それよりも…”皆様”がいらっしゃった様ですよ。頑張ってください。」
「え?クルス…?」
「私は巻き込まれたく無い…では無く侍女として彼方の方で控えております。」
「いや、待ってくれ…クル」
その主様の声は途中で途切れる。
甲高い声に掻き消されたからだ。
「アリフレッド様、私と一緒にお茶をしませんか?」
「いいえ、私と!」
熱烈な主様のファン…..ってか婚約者候補でもある令嬢の方々である。
ごめん、主様。
一回庇おうとしたんだけど、令嬢パワーって凄いね。
熱意にやられちゃったよ。
もう巻き込まれたく無いし、ちょっぴりあんなに美人な令嬢方に取り合いっこされてる事が羨ましいからがんばって。
主様、本当は女性だし、嬉しく無いかもしれないけれど。
ドドドドドドドドッと令嬢方の波に呑まれる様にして消えていく主様を見送る。
さーて、気を取り直して、主様の次の授業の準備でもしますか。
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