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侍女Aと侍女Aの兄貴の色々。
侍女A と侍女A の兄貴の色々。
「ふう…」
私は積み上がった書類の山を見て溜息をついた。
此処は私の仕事部屋である。
勿論、アーテル国国王としてのだ。
フォリウム国の辺境外れにあるこの仕事部屋…..ログハウスに、まさか一国の王が立て篭って仕事をしているとは思わないだろう。
万が一の事に備えてとんでも無く強力な防御魔法を家の周りに張っているので、盗賊が来たり火事が起きても安全である。
他にもアーテル帝国の王宮で仕事をすると、部下達が追加の仕事を持ってくるので、なるべく早く仕事を終わらせたい日には丁度良かった。
今日は主様の魔術学院について行ったので、侍女としての仕事が終わる頃にはもう真夜中である。
現在の時刻は12時を過ぎ、日が沈み紫紺の暗闇が広がる窓から、夜なのに明るい街灯の光が点灯していた。
約128枚目の資料に目を通し、約53枚目の書類にサインを押す。
急に途轍も無い眠気が襲って来たので、欠伸を噛み殺しながらコーヒーを飲んだ。
この世界にもコーヒーはあるらしく、びっくりしたのは良い思い出である。
程良い苦味が脳を覚醒させる。
だが、あと二時間くらいしか持ちそうにない。
次からはもっと濃いコーヒーを淹れよう。
目を瞬かせながら書類を見る。
あれぇ、おかしいな、書類がダブって見えるぞ?
目を覚ますんだ、フルクトゥウス。
こんな事で倒れるな、まだまだいけるぞお前は!
そんな時だった、私が開発した水晶型携帯電話から、宮廷音楽家に作らせた前世のアニソンが響いたのは。
慣れ親しんだ勇ましいアニソンに和まされつつ、こんな時間に誰だよ、部下だったら怒鳴り付けると水晶に机から取り出した魔石を嵌めた。
カチッと音がして水晶から音声が流れる。
「フルクトゥウス、おま」
私は秒で電話を切った。
兄貴である。
長男である。
よりにもよって、こんな私の頭が機能しなくなる時間帯に一番頭を使って対処しなければならない長男から電話がかかって来たのだ。
もう一度着信音が流れ出す。
ふぅ、落ち着け私、冷静かつ冷静に対処するのだ。
カチ、魔石を嵌めてっと……
「フルクトゥウスおまえ」
「現在お掛けになった電話番号は使用されておりません。」
ピッ…..
虚しく電子音がする。
やばい、本能が電話を切ってしまった。
あかん。
もう一度着信音が水晶から流れ出す。
いっそのことこの水晶叩き割ろうか?
だが、コレ結構制作費かかったし……叩き割るのは遠慮したい。
仕方ない….か。
嫌々水晶に魔石を嵌める。
長男の所為で貴重な魔石が2つも駄目になった。
この水晶、魔石嵌めると起動する所までは良いのだが使い終わった瞬間魔石は粉々に毎回砕けるのである。
使用する度に掃除もコストもかかるので、改良中だ。
「フルクトゥウスお前、暇か?」
「すみません、兄上我は暇では無いので切らせて頂きます。さっきまでのは軽いジョークなのでお気にせずに。」
「まて、直ぐに切ろうとするな。ジョークを言う余裕があると言う事は暇なのだな?」
「いえ、兄上。ジョークを言えるぐらいの余裕を普段から持てる程、国政にゆとりが出来て欲しい言う願望が先程少々漏れてしまった様でして。若輩である我が兄上の様に暇を持て余すのはまだ先の事のようです。」
兄上の様に….と言う所を若干強調しつつ、返答する。
「そうか、ゆとりが無いのだな。では、休んでないのではないのか?この機会に私が休暇をやろう。」
王に休暇も何もねぇよ、完全なるブラックだよ、お前から貰う休暇は大体休暇じゃねえと言うツッコミを胸の中に仕舞いつつ、反論しようと考えを巡らせる。
あ、ヤバい何も出てこない。
おーい脳内単細胞ー働けー、何?眠い?
そうかぁ…..お前も眠いのか。って眠いのは私も一緒だよ、働け!
「喜べ、今回の休暇は婚約者候補探しだ!」
「兄上その休暇は返上させってもう一回言って頂けないでしょうか?」
「婚約者候補探しだ!!」
「誰の….ですか?」
「お前と私の。」
「はぁっ?」
長男曰くだが。
長男の配下達が「お世継ぎをー」だの「婚約者をー」
だの煩いので、そういった者達を黙らせる為に婚約者パーティーを開き候補を見つけようと。
でも自分だけそんな面倒くさい事をしなければ行けないのか訳がわからなかったので私を巻き込んだと。
他の兄妹たちには掛け合っても、
「勿論です兄上、兄上の命令ならばどんな命令であろうとも聞きます」
と、似たり寄ったりな面白くない反応をするので嫌がる私に掛け合ったと。
そう言えば、他の兄妹達は長男に絶対の忠誠を誓ってるんだっけ?
長男以外の兄弟に対しては仲があんまり良くないのにね。
「私からの電話を秒で切る様な愚か者もお前だけだしな」
と水晶の向こう側で長男が笑う気配がした時は、本気で殺意が湧いた。
そういえば、兄妹同士で戦ったり暗殺未遂や反乱を起こした場合は身分剥奪、領土剥奪の上国外追放だっけ?
追放か….悪くない。
ちょっと殺ってくるか。
私の脳は最早正常に機能しなくなっていた。
「まぁ、あらゆる国の美女美男を呼んだから期待して良いぞ。必ずは婚約者候補が見つかる事だろう。」
美男美女ってなんだよ、金持ちかっ!
そういえば金持ちだったなこの人。
美男美女と長男が言ったのには訳がある。何とこの世界、男性同士…….又は女性同士での婚姻が認められているのだ。魔力と、魔具、そして双方の血等を使い子供を創る事ができるのが一番の理由であろう。
他にも、そもそも性別がない無性やどっちもついてる……何かとは言わないが中性と言う性があったり、あんまり性別関係ないのだ。
ん?そう言えば、私の性別なんだか聞いて無いって?
…………..。
前世は女性だったヨ。
「いえ、婚約者はまだ要らないのですが…..エルフは長生きですし。」
「それを言ったら私も同じだろう?お前と同じエルフだしな。」
「まぁ、行きたくなくてもお前は行かなければならない。これも父上と約束した”兄妹の面倒を見る”と言う契約内に含まれているからな。兄を”困らせたら”どうなるかお前も分かっているだろう?」
「そうですね。」
フン、と鼻を鳴らす長男。
どうもこの人は、私の神経を擦り減らし、怒りを増幅させるのに長けているようだ。
面倒言うけどね、そう言う面倒は大きなお世話だわっ。
ってかもう私が婚約者候補探しのパーティーに出るのは決定事項なのね。
色々手はもう回ってるんだろうし、抵抗するだけ無駄か……..
「日時は、2週間後だ。我が国ウェンテール中央都市にあるパーティ会場にて開催する。詳細は後程手紙で送ろう。」
「はい。」
二週間後か早いなー。それだけで終われよ早く電話切りたいと呑気にしていた私だが、その次の瞬間兄の言葉に固まる事になる。
「あ、あとそういえばなんだがお前の主であるアリフレッド?とかって言う奴も招待しといたぞ。」
「はっ?」
「それでは私は忙しいから切るぞ」
「待ってください兄上、主を巻き込んだの」
プーッッッッッ
人を小馬鹿にしている様に聞こえる電子音が流れ通話が終了する。
え?どう言う事?
主も婚約者候補を集うパーティに招待した?
朝、そんな重要そうな話は主から聞かされてない。
って事は今招待状を出した?
今からウェンテール国から出ている郵便物を全て調べて破ろうか?
いや、だがあの兄の事だ。
私に知らせるのと同時に侯爵家に郵便物が届くように仕向けた可能性が大きい。
間に合わないか…….
それより二週間後か。
主に休暇を貰う言い訳と、多分長男主催とは言え私も何かしら用意しなくてはならなくなるから予定を色々変更しなければならない。
この山の様に積み上がった仕事に加えて、また仕事が増える….?
畜生、覚えとれよ糞兄貴がっっ、この怨み後できっちり返すからなっ!
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