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侍女Aと面倒な仕事
侍女Aと面倒な仕事 〜前編〜
「おはようございます、アリーエ様。」
今日も私は主を起こしに行く。
二重にボヤける視界の中、主を何とか起こした。
昨日の夜、徹夜して色々な書類を片付けたので正直言って凄く眠い。
一昨昨日もそんな寝てないし、暫く睡眠をとってない気がする。
ってか、気を抜いたら倒れそう。
これがブラック企業に勤める者の苦痛か….
「おはようクルス、って顔色凄く悪いけど大丈夫かい?」
「大丈夫ですアリーエ様。私は元気ですよ。」
「いや、そうには見えないから言っているんだが……。凄い隈だし、昨日夜遅くまで起きていたのかな?早く寝ないと体に良くないよ?」
「そうですね…….気をつけます。」
「一応、今日は休んだらどうだい?侍女長に掛け合ってみるけど。」
「いえ、本当に大丈夫ですよ。」
「本当に?それなら良いんだけど……」
心配して頂きありがとうございます主様。
でも、多分大丈夫。只の過労だし。
エルフって見た目と違って頑丈だから倒れたり多分しないよ!
主様を起こして、いつもと同じく食堂に向かう。
食堂で、主様と主様の家族が朝ご飯を食べているのを見ていた時だった。
急に目眩がした。
視界が暗転して、徐々に暗くなる。
ヤバい、倒れる……いやでも、まさかこの私が倒れる訳が…….あれ?もしかして立ったまま寝てる?
おかしいなぁ、とぼんやり考えていたら、ガッッと音がして冷たい何かに額と体がぶつかる音がした。あーこれもしかして床?
痛みは感じなかった。
私頑丈だからな!
でも起き上がろうとしていても力が出ない。
おかしいな、早く起き上がらないと主様に迷惑がかかるからさっさと動きたいのに。
何かバタバタ足音がする。
私倒れたからね。
そりゃあ他の使用人達も動揺するか。
休暇、取ればよかったかな?
主様も侍女長に掛け合ってくれるって言ってたし。
でも昨日、主様を町に連れ回して、お叱りを受けたからな。
ちょっと会うの気まずいな……
あ…..床ってこんなに気持ちいいのか…..
力を抜いて横になったのはいつだったっけ?
ね、眠気が襲ってくる………
やばい、起きろフルクティクルス!手、何か体の一部を動かすんだ!
こんなところで寝るんじゃない!
此処がダンジョンだったらモンスターに食われとるぞ!
おっおきろーー!
ーーでもさぁ、私、考えてみなよ?これから忙しくなるから休息なんて取れないよ?今サボれば今日の夜には全回復!バリバリ働けるよ!それとも私?ずっと徹夜漬けの仕事を休息もないのに頑張るの?できる?前世サボり魔の私が。
私の中の悪魔が囁く……..
結果ーーー無理。寝よ、私は頑張った………
「クルスっ」
誰かの声が微かに聞こえて、それと同時に私の意識は飛んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目が覚めると医務室にいた。
医務室…?いや違うな。
多分、マリーナ家の一室だ…….客室かな?
客室のベットの上に私は横になっていた。
頭はスッキリ快眠。
今ならバリバリ働けるぞっ!
「あ、起きたんだクルス。」
急に声がしたので、驚いて横を見れば同僚の侍女エミルがいた。
エミルは、さらに赤い果実を乗せたお盆をベット横の丸テーブルに置き、その横にある小さい椅子に座っていた。
エミルの、黄緑色が鮮やかな目が此方を向く。
「今?何時?アリーエ様は?」
矢継ぎ早に尋ねる私を宥めるかの様にエミルは私の肩を叩いた。
ポン、と軽い音がする。
「起きたばっかりじゃん、もうちょい大人しくしてなよ〜せっかく私がリンガ向いてるのに。」
リンガ……前世で言うリンゴを果物ナイフでエミルは剥いている。
シュルルルと綺麗に剥いているところを見ると、料理上手なだけあると感嘆してしまう。
「あ、ありがとう。」
「そうそう。今はね〜4時だよ。勿論午後の。アリーエ様は慌ててたけど、学園に行ったよ。ただ、一番面白いぐらい慌ててたのがね?旦那様なんだよ?」
「そうなんだ」
それは、それは。たしかに自分家で他国の王様が倒れて何かあったら、怖いわな。
「あとクルス、一応医者に見せたんだけど過労と寝不足だって。」
あーだよね。
「過労?そんなに働いてないのに」
侍女としての私はそんなに働いてないからな。
「絶対、夜遅くまで本読んでたでしょう。」
ジト目で見てくるエミル。
「そんな事……あるかもしれない。」
よーし、夜遅くまで本を読んでた設定で行こう。
「ほら、早く寝ないと駄目だよ?」
「それ、朝にアリーエ様に言われたな…」
剥き終わったリンガをエミルは口に詰めてくる。
美味しいんだけど、ちょっとタンマ……それ以上詰め込んだら窒息するっ……
ってか。貴重かつ高いリンガどっから持ってきた…?
「そう言えは、このリンガ、どうひたの?」
口の中にリンガが入っている所為で上手く喋れない、
「あぁこれはね、旦那様がくれたんだ。珍しいよね〜。あ、あとめっちゃ青い顔で『頼むから、頼むから機嫌を損ねてくれるなよ』って言ってたけどクルスあんた何かしたの?」
あーーそれは………
「いゃぁそんな。一介の使用人風情が旦那様に何かできる訳ないじゃん。旦那様のき•の•せ•いだよ。」
「本当に〜?」
うんうん。
「まっ、いいけど。あ、そう言えばクルス聞いた?」
「え?何を?」
ガタン、と椅子からエミルは立ち上がる。
大袈裟に手を広げながらエミルは言った。
「あの。大国ウェンテールが開くパーティにお嬢様が呼ばれたんだよっっ!!!」
ふーん。へぇぇー。
「そ、そうなんだ。」
「クルス、あんた反応薄いね。あのウェンテールだよ?普通王族さえ招待されるのが難しいって言う、絶対有名人しか招待されないパーティに呼ばれたんだよお嬢様が!いろんなコネをつくるチャンスだよ!」
「裏がありそうだね……」
表向きは婚約者探しのパーティでは無く、他国の人材との交流会みたいな感じになってるのか。
ほほぉ。
「それは無いんじゃない?お嬢様優秀だから招待されたんだよきっと。」
「へぇー」
「はぁ、ついてきたいなーパーティ。お嬢様の付き添いに立候補しようかな?もしかしたら出会いもあるかもしれないし……」
「いや、夢見過ぎでしょう。第一身分的に問題があるし。」
「現実を突きつけないでよ、もう。クルスは冷めてるな。」
そんなやり取りをしつつ。
「あっ、もう5:00になるな。私今日はあがって良いかな?」
「えーサボりすぎじゃあ無いの?クルス?でも、安静にして、しっかり休養をとった方が良いってお医者さんも言ってたしな。いいんじゃない?侍女長には別邸に帰ったって言っとくね!」
「ありがとう、エミル。じゃあそれでは…..」
ぴょんとベットから飛び起きる。
ベットシーツと枕シーツを取り替えたその後布団を整え、客室から出ようと思ってた時だった。
「あーークルス、もう食べないの?リンガ。余ってるから私食べていい?」
忘れてたな、リンガの事。
皿にはまだ4切れくらいのリンガが残っていた。
食べたいけど…….
「いいや、あとはエミルがどうぞ。」
「いやったー!美味しそう。」
むしゃむしゃとリンガを食べ始めたエミルを尻目に部屋から出る。
侍女長や他の使用人に捕まると、何か別の仕事を押し付けられたりする可能性があるのでそっとマリーナ邸宅を出た。
別邸の自室にて、ゲートを開きアーテル帝国の王宮へっと。
侍女の姿から王としての姿に変身して、仕事部屋の戸を開ける。
ずらっと並ぶ部下達。
「陛下、今日はこの資料について…」
「あの、計画書のサインを…」
ふう、しんどい仕事の始まりか……
パーティについてはもう詳細が書かれた手紙が送られて来たのでそれに割く金額だの何だのを考えておく。
あとは、色々私が頼んだ魔具の設計図を見て、許可を出したりだの病院の新規設立場所の決定だの予算予算予算んっっ……!
あと、この前行ったアンティーク店との契約の件、話さないと……
死ぬぅぅぅぅ………
あぁ、30分前くらいにタイムスリップして呑気にリンガ食べてたいな………
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