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最終話 願いの果てに望むもの
「あの焼け跡しか残ってなかった、
離れの中に、僕達が今いるって、
どういうことだ?」
「この通路だけ残っていたとか?」
「地下室とかか?」
「……いえ、そういうことではないのです…
どうぞ、お入りください、
私が閉じ込められていた世界に…」
「ちょっと待って!!
もしかして…ついていったら、
殺されるんじゃ……」
僕達は、彼女から離れ、身を寄せた。
「いえ!危害を加える気はありません。
ただ、長い間1人でいたので寂しくて…
しばらくみなさんといられたらよいなぁ…
と、そう思いまして……」
「でも…サイカさんは亡くなったんですよね。
なんで、ここにいるのですか?」
「それは、私にもわかりません……
ただ、長い間、主を待っていた気がします。
私は、この世に未練を残した生霊です。」
「こうゆう場合は、どうすればいいんだ?」
「そんなことより、飯だ!飯!」
こんな状況にも関わらず、リョウヤは、
ご飯のことばっかり考えて、叫んでいた。
「わかりました。ご飯の方は、準備が
できておりますので、こちらへどうぞ。」
「やったー!飯だ!飯!」
ヒャッホーイ!と、リョウヤは、中へ飛び込んだ。
「さぁ、たくさん召し上がれ。
おかわりもありますよー」
「……食べ物は大丈夫?」
「大丈夫です!そこまでの悪霊じゃ、
ございません!」
「お代わりくださーい。」
「あ、はーい!」
「リョウヤ、疑問も持たずに、
よく食えるな……」
「でも、楽しそうだな。生き生きしてる。
久々の仕事で、嬉しそうだな。」
このままここにいるわけにはいかないけど、
帰ってしまうと、きっとまた、寂しくなるのだろうな。
それはそれで、気の毒だな……
何かお役に立てればいいんだけどな………
…そういえばさっき気になることを言っていたような…
「ふぅー久しぶりに腕の振るい甲斐が、
ありましたわ!ふふふっ。………」
……ここにあの方もいらっしゃれば、まだまだもっと腕を振るいますのに…
私は、あの方の名前を覚えていない……
「あの…」
「おかわりですか?」
「おかわりじゃないで──」
「おかわりください。」
本当、リョウヤは、気を使わないな……
「その、先ほど、閉じ込められた
とこちらに来た時に言いましたよね。
それは、どういう意味ですか?」
「………あぁ、離れが燃えた時、私は
そちらの倉庫の中にいましたの……。
知らずに誰かが扉に鍵をかけたので
しょうね……。
中からは開かなくてそのまま………。
それからずっとこの場所に、
縛り付けられたまま、どこにも
行けないのです……。
この鍵が開けば、結界も解けて、
自由の身になれるのでしょうね……」
カチャッと音を立てて、鍵を触った。
────その鍵穴は──
「──あ、──あああああ!!
その鍵はーーっ!!」
僕はそう叫んで、皆のところへ戻った。
「鍵ーーーー!!」
「うお!?なんだ!?鍵!?」
「鍵だよ!来る時持ってきたじゃん。」
「あ、ああ、あれか。どこいったかな?」
「僕もだよ!!ああ、どうしよう!?
みんな、鍵を探して!!」
わーーっ!!っと皆で探し始めた。
「あの…一体何の騒ぎですか?」
「さっきの鍵ですよ!僕達ここに来る時に、
手紙をもらったんですよ。
そこに鍵も入っていて、もしかしたら、
その鍵が、そうかも。」
「えっ…」
「他にもああいう鍵が?」
「ええ、ありますけど……」
「でも、
その鍵でも開かなかったんですよね?」
「はい。」
「じゃあやっぱり、あの鍵がそうなのか…」
「あの、その鍵はどこで…?」
「多分、僕の祖父の物だと思います。
手紙と一緒に大事そうに、
入っていました。」
「!」
……あぁ、物珍しいからと鍵をご所望された方などお一人しかご存じません……
じゃああなたはあの方の……
そうだったのですね………
僕は、皆とあらゆるところを探した。
「あったーー?」
「ないよーー。」
「玄関から、たどってみるか!」
「私、ベッドルーム見てきます。」
「ここ広すぎるだろ!」
「トイレも確認する。」
うーん、見つからないなぁ…….
あの鍵が倉庫の鍵なら、せめて、自由にしてあげたい…!
「あらまあ、こんなに散らかして……
お仕事増やしてくださるの?」
「仕方ないですねぇ…」
散らかった本などを拾っていると、
机の下に鍵が見つかった。
あっ!!あれは!!あの鍵だ!!
…………でも、ここで見つかってしまうと、
みなさんとお別れ。私は、ひとりぼっち。
見つからなかったら───
───このまま一緒に………
私は、立ち上がり机の下に爪先を入れ、
鍵を─────。
この部屋を探してみるか。
ここは、確かリョウヤと衝突した場所。
ここなら…。
その部屋を探してみたが、鍵は無かった。
「一体、どこだ?」
ため息をして、足元に目をやると、
「───あった!!
鍵があったぞ!!」
僕は、叫んだ。なんで気づかなかったんだろう。机の隣に、落ちていたなんて。
その鍵を持っていって、開けてみた。
「やった。開いたぞ!!」
「……ありがとう。」
サイカは、皆の方へ向き、
「この度は、ご迷惑をおかけして、
ごめんなさいみなさん。」
「いえいえ。」
「ご飯、美味しかったです。」
「ありがとうございます……。
そして……」
サイカは、僕の方へ向いた。
「あの方に……あなたのお祖父様に
よろしくお伝えください……
では……」
「待って!最後に、僕の名前は、ハジメ。
またの名を、
カリウス・カサイ=ハジメです。」
────その名前で私は、思い出した。
あの日の出会いを。
「よろしく、メイドさん。僕の名は、
カリウス・カサイ=キリュウだ。」
……あぁ主よ、今になって思い出しました。
あなたの名前を。あぁ本当に遅すぎました。
もう私に未練は、ありません。あなたのもとへ逝けることが、
私のこの世最後の望みです。
「───あぁ、本当にありがとう。」
サイカは、涙を流して見送った。
気がついたら、焼け跡の野原にいた。
外は、すっかり晴れ渡っている。
「なんか、夢を見ていたみたいだ。」
「………いや、夢じゃない。
だって鍵がないもん。」
「そうだな。」
「……でも、彼女が自由になれてよかった
です。」
「………よし、帰るか。」
「……そうだね。」
僕達は、シュリウス城を後にした。
サイカは、
天国でお祖父様に会えただろうか。
あの別れ際、サイカが言っていたことは、
────「君と、いたかった。」─────
────────THE END────────
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