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怪談達のお別れ会
月明かりが青白く、古ぼけた木目を照らしていた。中央にピアノが据えられた室内の窓際には、片付けられた椅子が積みあげられている。
広々とした床の上には、大小様々な人物が車座に座っていた。
「もうほんと、最近の子供って好奇心が全然ないんだから!」
「こらこら、花子ちゃん。実験用アルコールで酔っ払わないでください。こっちの水も飲んで」
静かな校舎には、不釣り合いな酔っぱらいの声が響く。しかしその声はお酒を飲んでいるにしては、少々幼さが残っていた。
それもそのはず。ビーカーからアルコールをあおっているのは、おかっぱ頭の少女、トイレの花子さんだった。隣で彼女を止めているのは髷をゆった二宮金次郎だ。
「こうしてここに集まるのも最後なんだ。今日くらい羽目を外させてあげたら?
全く、金ちゃんったら真面目なんだから」
二人の様子を見た、正面の男が陽気に言った。やれやれと首を振ると動きに合わせて音が鳴る。そしてそのままアルコールを口に運んだ。しかし、それは胃に運ばれることなく、びちゃびちゃと床に落ちた。
彼の身体には骨しかない。
「あぁ、もう! 格さん、一滴も飲めないのに酔ってるんですか!」
金次郎が教室においてあった雑巾で、濡れた床と骨を乱暴に拭く。骨格標本は怒るでもなく、くすぐったいとケタケタ笑った。
「花子ちゃんはこの何十年もの間、本当に頑張ってたよ。さすが俺らの紅一点! 学校の怪談で一番に思いつくのは間違いなく君さ」
骨格標本がアルコール瓶を傾けると、花子さんは無言でビーカーを差し出す。注がれたそれを一気に飲み干すと、口を開いた。
「でも少し前から、塾、塾、お稽古、塾、お稽古って、ちっともかまってくれなくて……私達みたいなのは、忘れられたら消えちゃうのに!」
俯いて落ち込んで見えた花子だったが、顔を上げ叫んだ目には怒りが浮かんでいる。どう慰めようかと戸惑った周囲もその様子に苦笑した。
空気を変えるように、骨格標本が明るく言った。
「おまけに数も少なくなっちまったから、昔みたいな悪ガキもめったに現れなくなったしな。最後に校舎に忍び込んできたのはいつだっけ?」
骨格標本が隣の人体模型に話を振ると、彼は腕を組み考え込んだ。皆の注目が集まっても、慌てることもない。
何時まで経っても口を開かない人体模型に顔を見合わせ肩をすくめる。
「ま、だいぶ昔だったよな。そういや忍び込んで来たやつで、面白いのがいたな。ビビりのくせに俺達の謎を解き明かすって言って。傑作だったのは――」
そうして話題は子供達との思い出話に移っていった。
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