二人のその後③‥‥そして(終)

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二人のその後③‥‥そして(終)

彼女と初めて通学、下校したあの日から数日が経った。 実はあれからは一緒に通うことができなくなっていた。 卒業式シーズン‥やはり高校によっても取り組み方が様々であり、 彼女の通う学校は、とても力を入れているらしい。 彼女の所属する委員会もその活動に積極的な参加を求められているらしく、朝早くに登校、夜遅くに下校という日々が続いてしまっているそうだ。 本当はそれに合わせて一緒に行きたいと思ったのだが、彼女が気を遣わせてしまっていると思わせてしまうかもと思ったので、こちらから言うのはやめた。 そしてそれと重なり、俺はスーパーのアルバイトがあるため、 下校を待つこともできなく‥普段は会う機会が無くなっていた。‥‥でも pipi メッセージの通知がくる。もちろん、相手は彼女だ 「今、学校終わったよ。これから帰るね。」 毎日、少しだけだがメッセージのやり取りをするようになった。 これは、大きな進歩どころか‥とても楽しくて仕方がない。 「お疲れ。帰りに気をつけてね。俺はバイト行ってきます」 たった一言二言のやり取り。 特に趣味の話題とか、合う趣味はないから話もしないが、それでもこの短いやり取りをしてるだけで、とても幸せな気分に浸れた。 「うん、ありがとう。バイト頑張ってね。また今度買い物に行くね」 「マジで?楽しみに待ってる!」 大体が、俺からのメッセージに最後、彼女の"既読"がついて終了する。 俺はそれを見届けると「よし!」と気合を入れてバイトに向かえるのだ。 彼女からの応援を受けて、どんな作業でも乗り越えられる気がする。 そんな日々が続いていた、ある日‥‥ 「なあ」 「ん?」 学校の休み時間、教室で話しかけられる。 話しかけてきたのはもちろん、いつもの一番の友人だ。 だが、今回はいつもとは様子が違っており、もう一人の友人と2人して真剣な面持ちでいた。 「どうしたよ、二人して」 俺はいつもと違う気配の二人を察して、弄っていたスマホの手を止めた。 友人二人は互いに目配せをすると、少し頷くと‥重い口を開いた。 「黙ってたんだけどさ‥‥俺達見ちゃったんだよ。お前が女の子と話してるの。しかも他校の」 「正直‥聞こうか迷ったんだけどさ、あんまりそういうの‥俺達で話したこととかないから」 「あー‥‥‥‥」 なるほどな、と思った。 確かに、友人達が何か隠してるのか、余所余所しい感じがあったのは気づいていた。 しかもそれは、彼女と一緒に登校して、 一緒に下校した日の翌日からだったから‥‥自分の中で合致した。 「もしかして‥‥彼女できたのか?」 「んー‥‥まあ、な。」 俺の返事に二人はまた顔を見合わせる。 その後すぐに、二人がかりで俺の体を羽交い絞めした。 「お前!抜け駆けしやがって!!チクショー羨ましいぞ!」 「俺達は高校卒業までは彼女作らないという約束を交わした仲だっただろ!?」 いつそんな約束を交わしたのか。 と、言いつつ二人はとても笑顔で俺に文句を言ってきていた。 友人達は悪いやつじゃないのはわかってる。 恐らく、羨ましいとか思ってるんだろうなとは思うが、少なくともお祝いをしてくれるような奴等だ。 だから、俺もいつかは話そうと思っていたが‥先にバレていたなら仕方ない。 「おい、離せよ!わかったよ、ちゃんと話すから‥‥」 「よし、本当だな!?‥‥じゃあ、今日久しぶりにマルチやりながらボイスチャットで聞かせてもらうぜ!」 「よし、そうとなれば早く帰ろうぜ!」 こういう話には縁のないためなのか、どうやら俺の恋バナを聞きたくて仕方ないらしい。 やれやれと思いつつも、俺もどこか上機嫌になっていた。 最近は、彼女ともメッセージでしかやり取りできず暇もしてたし、 久しぶりに友人達と遊ぶかなと、俺も二人の誘いに乗った。 だが‥‥‥それと同時に、俺は自分の中で一つの疑問が頭の中に浮かんでいた。 (俺は‥彼女と付き合っているのか‥‥‥‥?) ーーーー同日 夜18時 辺りも暗くなり、学校内の人の気配もほとんど無くなっていた。 机の書類を整理しバインダーに閉じると、それを手に抱えて職員室に持っていった。 ガラガラガラッ 「先生、整理終わりました。」 「おおー、こんな時間までありがとうな。もう遅いから気をつけて帰るようにね」 「ありがとうございます。それじゃ、さようなら。」 担任の先生に頭を下げて挨拶すると、私は職員室の扉を閉めて後にした。 一人で歩く帰り道。 人気の少ない通り道の中、スマホをポチポチしながら帰る。 いつもの日常と変わらない日々。 そんな中で唯一変わったことは、メッセージのやり取りをする相手が増えたこと‥‥ 「今、学校終わったよ。これから帰るね」 一言メッセージを送る。 私はそのメッセージを送った相手の名前を見て、少し微笑む。 先週までは話していなかった相手。 寧ろ、こちらからSNSを見ているだけだった相手。 幼い時以来から‥‥ずっと離れていた相手。 そんな相手と、今はメッセージのやり取りをする。 pipi 「お疲れ!帰りは気をつけて帰ってね!」 大体、私の方が遅くに学校が終わることが多いため、 私の方からメッセージを送ることが多い。 そのメッセージに対して、彼が返信をしてくれて終わる事が多かった。 たまに、彼がアルバイトがある日には、更に私からも返信をすることがあったが‥‥今日はその文言が無かった。 私はいつも通りに、彼からの返信を見て"既読"をつけると、 アプリをクローズした。 「ふふっ‥」 私は思わず笑みがこぼれていた。 ハッ、となり周りを見渡すが、人は一人も歩いていなかった。 一人スマホ見ながら笑っていると不審に思われるかもしれない‥ そんなことを思いながら、誰もいないことに安心して胸を撫で下ろす。 再び帰り道の歩みを進めようとしたその時、 pipi 再びメッセージの受信の通知をお知らせする音が鳴る。 お母さんかな?それとも友達だろうか‥‥ 私は再び立ち止まりスマホを開くと、そこにはメッセージの送信者の名前は「彼」からのメッセージだと気づく。 いつもの会話のキャッチボール以外でのメッセージ‥‥ 私は、ゆっくり受信した通知をタップすると、そこにはこんなメッセージが書かれていた 「明日、良かったら、一緒に出掛け‥ない?」 ーーーー翌日 俺は予定時間より20分早く着くように、待ち合わせ場所に向かっていた。 本来なら、互いに家を知っているため、待ち合わせして行くこともできたけど‥‥やっぱりデート感を出したいために俺は敢えて、出掛け先の所で待ち合わせするように提案した。 彼女は何も意見を言うことなく、ただ一言「いいよ」とだけ返事してくれた。 午前 8:40 9:00に待ち合わせだが、家にいるとソワソワしてしまっていたため少し早めに出ていた。それと早く彼女を待っていたかったのだった。 (やべー‥なんか緊張するな‥) 待ち合わせ場所に近づくに連れて緊張が湧いてくる。 まだ、待ち合わせ時間になっておらず、彼女も来てないのに‥‥と考えながら向かっていたが、 「‥‥‥‥あれ!?」 待ち合わせ場所を目の前にして、思いがけない光景を目にする。 既にその待ち合わせ場所には、人影があったのだ。 「おはよう」 「お、おはよう‥随分早いね」 彼女がもう既に来ていた。 早めに来て、待っていこうと思っていたのだが‥‥まさか更に早くいるとは。 「うん、せっかくだし‥‥何か早く起きちゃって。だから早めに来ちゃった」 「あ、俺も。何かなかなか眠れなくて早めに起きちゃってさ‥」 遠足の前日の小学生のような感じ‥と言ったら少し違うが、 テンションがワクワクしているという意味では同じなのかもしれない。 だが、何より自分だけでなく、彼女も同じだったのがとても嬉しかった。 「じゃ、じゃあ‥行こっか。今日は買い物とかご飯とか色々と行きたいと思ってたんだ」 「そうなんだ。うん、行こ」 自分の中で建てていた計画‥‥ それをちゃんと遂行するため、少し威張って歩き出す。 彼女はどこか、そんな俺の姿を見て少し微笑んでいるように感じた。 ーーーー買い物をして、ご飯を食べて、彼女が見たいと言ったイルミネーションを見て‥‥気がついたら時間はもう17時を過ぎていた。 私は彼が買ってくれた、大好きな"うさにん"のアクリルキーホルダーを大切に仕舞う。 (※うさにん とは うさぎにんじんのゆるキャラである) 二人で「ご飯美味しかった」とか、「景色綺麗だったね」とか、 今日あった色んな事柄の話や、学校であったことの話など様々な話をしながら歩いていた。 「あっ‥‥‥」 私はふと気がつき、声を出す。 ゆっくり歩いているつもりが、いつの間にか駅に着いてしまったらしい。 「時間って早いなー‥本当にさ‥」 彼がふと呟く。 どこか、少し気まずそうな寂しそうな顔をしていた。 その言葉に、私も心の中で強く頷いていた。 「うん、早いね」 名残惜しい時間。だが。別にこれが最後という訳ではない。 それはわかっているのだが、この時間がずっと続いてほしいと思った。 「あのさ‥‥」 私は何か言おうと言葉を考えてると、彼が再び口を開いた。 「今日、楽しかった?」 少し不安気そうな表情を浮かべていた意味がわかった。 彼は、誘ってくれた私の反応を見て、不安を抱いていのかも知れない‥‥‥ 「うん、凄い楽しかったよ。本当にありがとう」 チラチラ 先程、カバンに仕舞った"うさにん"のアクリルキーホルダーを再び取り出す。 「本当、このキャラ可愛くて好きなんだ。鞄につけるね」 「良かったー‥ぬいぐるみもあげたから、同じものばかりになっちゃうか心配だったんだ。それに‥デートとか初めてだし‥」 ドキッ 彼の言葉に思わず、心臓が高まる。そうか、デートなんだ。 私はデートという言葉を言われてから、何故だか少し緊張してしまっていた。 彼は私のことを思って、ずっと色々と今日の予定を考えてくれていたんだ‥そう思うと、心の底から嬉しかった。 こんな気持ち、初めて感じていた。 「‥‥初デート、とても楽しかったよ。本当にありがとう」 私は彼に笑顔で返事をする。 彼も先程の表情から一変し、満面の安堵した笑顔を浮かべていた。 私も‥言わなきゃ ずっと前から思っていた‥そして、気持ちを伝えたあの日から、 彼に言いたかった言葉を伝えようと決心した‥‥その時だった。 「あのさ‥‥」 「え、う、うん」 まさかの彼からの言葉。 私は決心した思いを伝えようと意気込んでいたが、少し肩の力が抜けた感じがした。 「‥‥あの時、好きって思いは互いに伝えたけどさ‥伝えてなかったことがあって」 「‥‥‥うん」 私はただただ、彼からの言葉を待つことにした。 ーーーー俺は手を差し出し、彼女に頭を下げる。 「‥‥俺と‥俺と‥‥俺と付き合ってください!」 あの時、彼女は俺に好きだと伝えた。 そして俺も彼女に好きだと伝えた。 でも、恋人として‥付き合ってくださいなどという告白は互いにしていなかった。 幼馴染みとしての好きなのか、恋人としての好きなのか、本当はわかっているのに言い出せない自分がいた。 幼馴染みの関係が壊れてしまうんじゃないかと不安になっていた。 「‥‥好きと伝えたけど、恋人としての関係になっていたのか‥正直わかってなくて。でも、この気持ちは本当だから伝えたいと思ってたんだけど‥何か伝えたら迷惑なんじゃないかとか、怖くなってしまって‥」 ウジウジしていた自分‥だが、それをも包み隠さずに彼女には伝えようそう思っていた。 「‥‥ありがとう」 彼女が一言呟く。 「私も‥いつか言おうと思っていた。幼馴染みじゃなくて‥恋人として付き合ってください、て」 一粒の雫が彼女の頬を伝う。 彼女は普段なかなか見せないような、とても素敵な笑顔を浮かべながら、俺の方を向いていた。 「‥こちらこそ、よろしくお願いします」 深々と頭を下げ、彼女は俺の手を握った。 その瞬間‥俺の中の感情が込み上げてきた。 自分の手を震わせて、何かを堪えながら顔を上げた。 「‥‥‥こちらこそ、これからもよろしく」 「うん、よろしく。‥‥‥何て呼べばいいかな?」 「え、あー‥‥そうだな。名字でもいいよ、名前でも」 俺は少し恥ずかしそうに返事をする。 彼女は頷くと、そのまま俺に返すように言葉を続けた。 「私のことは‥‥‥名前、明恋って読んでいいからね。名字の 椿 は今日までにしてね」 素敵な彼女、椿 明恋は、とても素敵な微笑みを俺に向けて浮かべてくれた。
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