引継ぎ

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引継ぎ

 ナナが「引継ぎ」を口にした日から2ヵ月間、コロは毎日が猛特訓の日々だった。  ナナが家の柱で爪を研げば、コロも見様見真似で爪を研ぐ。ナナが前足と後ろ足を折り畳んで香箱座りをする、いわゆる猫座りをすれば、コロも短い足を必死に折り畳んで座った。  結衣はそんな2匹の様子を見るのが楽しみの1つとなった。コロが一生懸命ナナの真似をしている姿が、とても可愛いかったからだ。だが、コロにとっては厳しい訓練でしかなかった。  厳しい訓練のなかで特に苦労したのは、最後に教えてもらった、キャットタワーの上り方だった。お尻が大きく重いコロは上手く登れず、キャットタワーの半分の高さまでしか登ることが出来なかった。そして、最後まで頂上に辿り着く事が出来ないまま、ナナから猫の作法の訓練の終わりを告げられてしまった。                         〇  コロとナナは互いに横に並んで、キャットタワーを見上げていた。 「えっと……、ナナ」  コロは恐る恐る口を開き、ナナの方に振り向いた。するとナナの前足がスッとコロに近づいてきた。コロの全身がググッと強ばる。条件反射で鼻頭がピクピクと動き、ナナの猫パンチを覚悟した。だが、コロに向けてゆっくり伸びてきたナナの前足は、コロの鼻頭を通り越し、ふわっと、コロの頭に乗せられた。ナナが意地悪く笑い、優しくコロの頭を撫でる。  コロの目が大きく見開く。丸い瞳がナナを不思議そうに見つめていた。ナナはそんな事お構いなしに、優しくコロの頭を撫で続ける。 「この2ヵ月、コーギーにしちゃあ、あんたは良くがんばったね。とてもできた犬だったよ」  突然のナナの優しい言葉。コロはただ目を丸くするばかりだった。ナナはその後黙ってしまい、ゆっくりとコロの頭を撫で続ける。コロは何を言えばいいのか分からなかった。でも今は、ナナに褒められたこと、優しく頭を撫でられていることが嬉しかった。コロの短い尻尾がぴこぴこと揺れ動く。  そんなコロに、ナナが嬉しそうな、そして寂し気な笑みを浮かべた。コロが不思議そうな丸い瞳でナナを見つめる。ナナがゆっくりと口を開いた。 「これからは自分でしっかり、忘れないように練習するんだよ。新入り猫が来た時のためにね。……、コロ」 「ん……、なに?」 「今まで、ありがとうね。ふふっ、ずっと楽しかったよ。あんたが、この家に来てから、ずっとね」  そう言って微笑んだナナは、キャットタワーを登り始めた。寝床である頂上まで、少しおぼつかない足取りで辿り着くと、そこでいつもの様に体をおろした。そして、そっと目を閉じ、永い眠りについたのだった。
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