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出会い
ミーンミンミンミン……セミがけたましく鳴いている。
僕は小さなカメラを持ってひまわり畑に足を運んだ。僕より背の高いひまわりが青空に向かって真っ直ぐ伸びている。
子供向きのカメラを構えてひまわりと青空を切り取る。
夏休み、毎年一週間はおばあちゃん家に帰省していた。田舎で何も無いが、このひまわり畑は格別で何度も何度も足を運んでいた。
いつも通り何枚も空を見上げながら写真を撮っていたら、突如足になにか柔らかいものが当たった。
「ひゃあ!? なんだ?」
素っ頓狂は声を上げて、見下ろすと、足元には女の子が体育座りしていた。同い年か、年下か。長い艶やかな髪の毛には麦わら帽子が被さっている。白い肌に白いワンピース。相当可愛いことは明らかだった。
しかし僕は視界に違和感を覚え目を擦る。女の子は慌てたようにお尻に手をやった。
「あ……」
僕の視線はそれを見てしまった。女の子のお尻からは茶色のもふもふの……尻尾が生えていた。固まっていると、一陣の強い風が吹き抜け、麦わら帽子がふわりと浮かんだ。
「あ……!」
小さな声が下からした。
女の子は慌てて腕を伸ばしたが、届かずひまわりの上に乗っかってしまった。取ってあげよう、と思っても動けない。
──女の子の頭からは猫耳が生えていた。
「あ、あの、あの、すみません、帽子を……」
「えっ、あ、はい」
女の子の大きな瞳は潤んでいて、僕は慌ててかかとをあげて麦わら帽子を取って差し出した。女の子はいそいそと、そして深々と帽子を被る。
「あの……見ちゃいましたか?」
「う、うん……」
正直に答えると、女の子は目元を濡らしながら、深々と頭を下げてきた。
「見なかったことにしてください」
「えっ」
「私の……身体変でしょう、だから、見なかったことに」
こげ茶色の猫耳がだらりと垂れた。
「だから……さよなら!」
「え、待って!」
手を伸ばしたが、女の子は背を向けるとしっぽを揺らして、走り出して行った。中途半端に上がった腕がだらりと下がる。ひまわり畑に埋もれてその姿はもう見えない。
なんだったんだ……? これは夢か、それとも現実か……?
僕は呆然と立ちつくした。
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