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出会って五日、あっという間に最終日を迎えた。僕は荷物をおざなりにまとめ、お母さんが何かいうのを無視してひまわり畑へと走った。
いつもの場所に向かうと、やはり陽葵ちゃんは座っていた。目が合うと、切なげに目を細めた。
「今日で、お別れだね」
「うん」
僕は陽葵ちゃんの横に腰掛けた。陽葵ちゃんは麦わら帽子を深くかぶる。
「短い間だったけど楽しかった。来年も会えるといいな……」
けたましく鳴いていたセミの声がやんだ。僕は陽葵ちゃんの目を見つめる。焦げ茶色の澄んだ大きな瞳の中に、口元を結んだ僕が写っていた。
僕はその口をゆっくりと開く。
「陽葵ちゃんは、自分の身体を嫌っていたよね。怖がられるって。でも、僕は──身体とかそういうの、抜きで……陽葵ちゃんが好き」
さーっとひまわりが風に揺られた。さらさらと陽葵ちゃんの真っ直ぐな髪が揺れ動く。
「真斗くん……私のことは忘れて」
「え?」
甘美なひと時に勝手に浸っていたが、打ち砕かれた。陽葵ちゃんは伏し目がちに続けた。
「もう、会わない方がいいと思う。私はやっぱり真斗くんとは違う。決定的に違うのよ。真斗くんの“夢”とか考えても、私はいてはいけない存在なの。お互いのためにも、私たちは別々にならないといけない」
皮肉にも陽葵ちゃんが一気にこんな話したのは初めてだった。
お互いのためにも僕らは別々になるべきだと言う陽葵ちゃん。でも、でも、でも──
「サヨナラ」
僕が口を開く前の陽葵ちゃんは勢いよく立ち上がって駆け出した。尻尾がふわりと揺れる。追いかけよう、と立ち上がった瞬間ビューッと強い風が吹き、花びらが舞って陽葵ちゃんの姿を消した。
出会った時と同じように、僕は立ち尽くす。セミが思い出したかのように、鳴き出した。
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