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空腹
――――お腹が空いたな。
僕は独り、小さな箱の中で震えていた。
ここに置いてかれて一体どのくらい経ったんだろう。ここに来る前、僕とお母さんのところに見慣れない人間の男がやってきたんだ。その男は、お母さんが大きな声で「私の子を連れてかないで!」って叫ぶのも無視して僕を箱に詰めた。
勿論必死に抵抗したけど、人間の男相手に小さい僕じゃ全然歯が立たなくて。お母さんも頑張って僕を取り戻そうとしてくれたけど、それも敵わなかった。怖くて怖くて、でもどうにもならなくて。その日は一日中箱の中で鳴き続けた。
そのせいで次の日にはだいぶ体力を消耗していて、それでもどうにか助けて欲しくて掠れた声で鳴いた。喉が渇いて声も出なくなった頃、僕は鳴くのを諦めた。でもなんとかお母さんのところに帰りたくて箱から出ようとした。けどダメだった。空は見えるのに壁が高すぎる。疲れきった僕は寝てしまった。
次に目が覚めたときふと思いついた。壁を登るのがダメなら倒してしまおう、と。昨日は高すぎる壁に絶望してしまったけど、あくまで僕は箱に入っているんだ。一方向に体当たりして箱を倒せば出られるかもしれない。
僕は早速行動した。ずっとご飯を食べていなかったからすごくお腹は空いているけど、不思議なことにまだ体は動く。
小さな箱だったからあまり助走はつけられなかったけど、全力で体当たりした。何度も何度も箱を揺らす。何度か倒れそうになって、でもギリギリ倒れなくて。数時間後には体力切れで遂に動けなくなってしまった。
そうすると先ほどまでの空腹感が一気に増してきて、本当に命の危険を感じた。
…あぁ、もうダメなのかな。僕はここで死んでしまうのかな。
そんなふうに考えていた時、1人の人間がやって来た。僕を箱に詰めた奴より半分以上も小さくて、これが人間の子供なんだろうなってぼんやり思った。
「ねこさん、大丈夫?」
その子供は弱りきった僕を見て、心配そうな顔をした。人間の言葉はわかんないけど、きっと何か、僕を労わるような言葉をくれてるのだと思う。
箱から出してはくれなかったけど、その子は“ねこかん”なるものをくれた。初めて見るもので最初は食べ物かどうかも分からなかった。なかなか食べない僕を見て、その子が口に入れるフリをしてくれた為そこで初めて理解した。
食べ終わったから感謝を込めて一鳴きしてみたら男の子は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。ご飯、僕のお小遣いで買ったからもうお金がなくて…ママは猫嫌いだし頼れないんだ。誰かいい人に拾ってもらってね」
相変わらず何を言ってるのか分からなかったけど、その子の顔が悲しそうだったから僕はここに残されるんだろうなって思った。
それ以降男の子が来ることはなかった。
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