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「知り合いの方が犬を飼ったんですって。私、本当に、猫を飼おうかな」
ベットに腰掛けて、カフスボタンを留める男の背中に話しかける。
「本当に?動物は一生ものだよ」
一生の約束。
この男の倫理観は何処に有るんだろうか。
「分かってますよ。一生、大事にするんです」
柔らかく落としたトーンで、この人の背中を刺すように、猫に一生を誓ってみたりする。
「そうか。なら、良いんじゃない?」
「白い毛のふわふわの猫。本当にいいの?」
男が振り返って、私の目を探るようにじっと見つめて、目線を落とした。
「百合香の自由だよ」
何をしたって、私の自由だ。
その境界線を絶対に越えてこない。
男が、優しく笑って、濃紺のジャケットを羽織って、私の頭を撫でて行く。
夜の終わりに玄関の閉まる音を聞くたび、胸が灼けるように痛い。
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