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支度を済ませてコーヒーを淹れていると、チャイムが鳴った。わたしはドリップの手を止め、インターフォンで応じた。画面に映ったのは、夏見だった。
「来ましたよ。両手が塞がっているんで開けてください」
「パヤパヤ」
「……」
玄関の扉を開け、夏見を招き入れる。彼女はスーパーの買い物袋を二つも持っていた。二リットルのペットボトルが三本入った袋と、もう一つには、食料品が入っているようだ。背中には大きなリュックサックを背負っている。まさかこれからキャンプに行こうなどと言い出すつもりだろうか。ドキドキしながら荷物整理を手伝っていると、夏見はわたしの心を見透かしたように言った。
「大丈夫ですよ。先輩が超インドア派なのはよく知ってますんで。単純に数日分の宿泊準備を整えてきただけです」
「宿泊ってどこに?」
「決まってるじゃないですか。ここですよ」
「なぜ?」
「卒論の準備始めるんですよね? 後輩として是非お力になれればと考えたうえでの行動ですよ」
「卒論?」
「違うんですか?」
「わたしは不思議な話を知りたいとひらめいただけで別に卒論のテーマにするつもりはなかったんだけど、それも悪くないかな。ところでわたしたち、出かけるんじゃなかった?」
「出かけるのは中止です。ピザ作るんで」と夏見は仏頂面で答え、「先輩と私がすれ違ってるのは、お互いの説明不足が原因ですね。あと思い込みが激しい」と続けた。
わたしは、「同感」と応じて、にこりと笑った。
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