U.F.O

8/8
前へ
/21ページ
次へ
「でも疑問に思ってるうちに、いつの間にか、そのサイコロのなかに移動していたんです。どうしてすぐ気づいたかと言うと、それまで私が立っていたベランダを外から見る格好になっていたからです。サイコロのなかは、大人三人が乗り込んだら身動きが取れなくなるだろうなという狭さでした。他に乗客はなく、私一人だけ乗せられていました。操作パネルのようなものはありません。あるのは全方向の外の景色が確認できる小窓だけです。すると、どこからか声が聞こえてきました。なんて言っているのかまったくわかりませんでしたが、合図だったようです。サイコロはいきなり上昇したかと思うと、ある一定のところで止まり、今度はゆっくり平行移動を始めました。周囲の建物を器用に避けながら、街中を滑空していったのです。不思議だったのは、小窓の外の景色でした。真夜中なのに昼間の明るさに照らされていて、しかもどこにも現代の建物がなかったんです。建物には、屋根がありませんでした。屋根を作るという概念が存在していなかったのだと思います。ですから家のなかで生活している人々の様子が丸見えでした。だけど、誰も気にしていませんでしたし、快活に暮らしているように見えました。私は次第に夢中になって外の景色を眺めるようになっていました。そのうち時間の感覚を失い、こう思ったんです。いったい誰が私に、『時間というものは、未来というある一定の方角へ向かって進んでいる』と刷り込んだのだろうと。時間と時間のあいだは、こんなにも自由に行き来できるのに、とも思いました。だけどおそらくなんですが、私が人間である以上、越えてはならない一線というものがあったのでしょう。それから何度かそのサイコロには乗せてもらいましたが、朝、目覚める頃には必ずこちら側に戻されていました。母に話しましけれど、『遮光カーテンなんだから眩しい光は入ってこないよね?』と、まともに取り合ってもらえませんでした」 「妙に説得力があること言うね、お母さん」 「え? そこですか? 話全体じゃなくて?」  わたしは思わせぶりな笑顔を浮かべてから答えた。 「ううん、面白かったよ、夏見の作り話。これからもよろしくね」  夏見はにやりと笑い、わたしのカレー味ピザを略奪した。 『U.F.O』end
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加