今は亡き者の話

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今は亡き者の話

 母様が死に際に教えてくださったのは、絶対に外部に漏洩してはならない秘密ごと。  安易に処女(おとめ)を捨てれば後悔する。  幼子であった私は、その言葉の意味など理解し難く、お隣で泣き噦る姉様を見るも、釣られて悲しみに暮れる事なども無く。  実の母親がお亡くなりになられたと言いますのに、薄情な子なのだと、一族の皆々様から忌み嫌われておりました。  五つ離れた姉は暫くして、家が定めた婚約者殿を拵え、婚姻の儀までの数年の間、花嫁修行に精を尽くしておりました。  世は発展の時代、流行の最先端に位置する町で、私は女学校のご学友と共に流行りの遊びに熱中する日々を送っております。 「ゆり子さん、こちらの髪飾りなんてどうかしら?」  歳は、十五となりました。女学校では高学年として、先輩風を吹かせるお年頃でございます。  姉のまり子姉様が御家を出て行ったのは、もうかれこれ二、三年も前の出来事です。  母亡き今、父様は新規事業の参入の為に、忙しい毎日を繰り返しており、我が家には祖父母と使いの者とで暮らしております。 「とてもお似合いですことよ。」  普段ですと女学校終わりには、迎えの者が自動車で参りますが、本日はたまの息抜きとして、暇を頂戴させて頂いております。  父様が忙しい時は、祖父母は私を甘やかしてくれて、遊びのお小遣いをこっそりと私にくれるのです。
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