有象無象

12/17

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
(どうしてお前は何もしない? あの時男がこっちに走ってきて、何故ぎょっとした? 自分は何もしなくていいと思ってたから?)  それは……。   (いつから誰かを呼ぶの人間になったんだ。お前は誰かに呼ばれるような人間になりたかったんだろ。そのためにずっと頑張ってきたんだろ)  ああ、いつから俺はこんなやつになっちまったんだろう。  昔から物わかりがいい方だった。どれだけ願っても現実は非情で、どうしようもないことはあるのだから。  だから何かを変えられる自分がほしかった。才能を信じたくて努力し続けた。  そして、気持ちだけではどうにもならない壁があることを知った。自分の乏しさを思い知った。  今も悔しいよ。 「あっ!」  女の子が転んだ。  誰も助けられない。戻れば、自分まで潰されてしまうから。  こんな時、ニマだったら。 (でも、今はお前しかいない)    そんな子象じゃ何もできない。そう馬鹿にされるうちに、自分までもがそう思うようになった。  、ゾウ太は大切な相棒。  違う。俺の相棒は役立たずなんかじゃない。  さっき男が喚いていたことが、脳裏に蘇る。  そうだ、他人の無責任な言葉に耳を貸すよりも。  俺は、俺だけは、ゾウ太(じぶん)を信じてやるべきだったんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加