有象無象

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 石コロが岩を受けることはできない。  でも、どれだけ凶暴だろうが、目が眩めば動きは止まる。  閃光が怪物の進行を阻む、その数秒さえあれば。 「逃げろ!」 「えっ」 「行け! あっちだ走れ!」  目を細めながら少女の背を押し、向こうへと走らせた。  ああ、やっちまった。  緊張と興奮でおかしくなっちまいそうだ。  分不相応にも程があるぜ。  俺は、正しいことをやれたんだろうか。 「ゾウ」  その小さな背中が、よくやった、と言ってくれた気がした。  発光が終わり、相手は視界を取り戻す。  ゾウ太を身代わりに置いてはいけない。俺たちはどんな時も一緒だ。 「……怖くねえ、怖くねえぞ」  三メートルの暴力が無慈悲に迫る。  逃げられない、受け止められない。  だからせめて、負け犬なりに最後まで。 「お前はあの子を殺せなかった! 残念だったな、お前が殺せるのは俺程度のもんだ! あの子は死なねえぞ! だから、だから俺たちの勝ちだ! そうだろゾウ太!」 「……ゾウッ」  相棒は優しい声で、そう頷いてくれた。  ああ、俺は今日死ぬんだなあ。  結局、才能ってやつには勝てなかったけど。  ちょっとくらいは、誇れる自分になれたかな。
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