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昔、木から下りられなくなって象に助けられたことがある。
あれ以来、俺は象使いに憧れるようになった。俺もいつかは百象隊に入り、その力で誰かを助けたいと強く願った。
俺たちは誰だって、心の中に象を有している。想像力を鍛え抜くことによって、それを捉えることができ、やがて創象できるようになる。
象使いを目指す者は少ない。その才能を掴むまで、途方もない努力が必要だからだ。そして、必要な量は誰にも分からない。
どれだけやっても足りなかった。俺よりあとに始めてさっと象を出したやつもいて、悍ましい嫉妬と劣等感に苛まれた。終わりのない暗闇を彷徨っているようだった。
努力は報われないこともある。恐ろしい現実だ。もしかしたら、俺は死ぬまで象を呼べないかもしれない。
しかし、続けていれば呼べる可能性は途絶えない。その残酷な博打にすべてを賭けてもいいほど、俺にとって象使いになるのは大事なことだったのだ。
そして、十六歳になったある日、ついにそれは姿を現した。
「――来い!」
俺の呼び声に、そいつは応えた。
目映い光が周囲を白く染める。
腕で目をかばいながら、俺は口元が緩むのを抑えられなかった。
ようやく、ようやくこの日が来た。
今までの時間が、不安が、努力が、ついに報われる時が来たんだ。
光が落ち着き、俺はそれを見上げて固まる。
そこには、何もない。
「え……?」
失敗? でも確かに呼べた感覚があった。なのに、どこにも。
困惑していると、何かが俺の足に触れる。
「うわ!? ……えっ」
再び、俺はぽかんと口を開いた。
俺が呼べたそいつは、象は象でも子象だったのだ。
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