有象無象

5/17

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 外では夜風が吹き続け、板きれがガタガタ音を立てている。  俺は随分前からひとりぼっちだった。  母は幼い頃亡くなり、父はある日「遅くなる」と言い残し、はした金を置いてどこかへ行ってしまった。父が新しい女の元へ通っているのはうっすら気付いていた。子供ながらに、俺は捨てられたのだと悟った。  知り合いに相談して、解体する寸前のボロ小屋をもらった。人が暮らすようなものではないが、雨風をしのげるならじゅうぶんだった。  毎日何かしらの仕事をして日銭を稼ぎ、空いた時間は創象に費やした。現実的な話、百象隊に入れたら衣食住が保証される。人生を変えるチャンスだった。  落ち込んだままでいるのは、落ち込む時間があるからだ。忙しい、余裕のない毎日を過ごしていれば、嫌なことを考える時間だってなくなる。実際、生きるためにしなければならないことは山ほどあった。  それでも、やっぱり眠れない夜がやってくる。  普段考えないようにしている不安が目を覚まし、じわりと俺の世界を包み込んでいく。この先、俺はひとりでちゃんと生きていけるのか。  そういう時は、俺は本当に、自分という存在がこのまま消えてしまうかもしれないと思った。身体をぶるぶる震わせて頭を抱えた。  けれど、今は違う。  俺の隣にはゾウ太がいる。温かいゾウ太を抱いて寝ると、隙間風だってへっちゃらだし、不安なんてどこか遠くに消えてしまう。  そういえば、昔は「そんな象で恥ずかしくないのかよ」と言われ、何度も喧嘩をした。でも、心のどこかで俺も思っていた。もしゾウ太が立派な象だったら、何かが変わっていたはずだって。  でも、もうそんなことは考えない。  夢は叶わなかったけれど、今の俺にはそれよりも大切なものができた。  でかくなくたって強くなくたって、ゾウ太は俺の大切な相棒なんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加