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その日の昼過ぎ、俺たちは配達を終えて道を歩いていた。
「はぁ」
今日は依頼がたったひとつしかなかった。これではろくな金が手に入らない。しけた小銭をポッケに突っ込み、擦り切れたかかとで砂を蹴った。砂が食えたら食べ物の心配もせずに済むのに。
こんな日は何も見ないに限る。何かを見るからほしいものが生まれ、それが手に入らないから苦しくなるんだ。分不相応のものなんて、初めから知らなければいい。
そう、知らなければよかったんだ。
「ゾウ?」
「どうした?」
相棒は突然立ち止まり、後ろを振り返る。
その視線の先には、細身の男の背中があった。
ゾウ太は動かずじっとそれを見ている。
次第に俺も、一緒にその男を見つめていた。
何だか、嫌な予感がした。
「泥棒だーっ!」
その男は、品物が入った袋を持って走り出した。こちらの方向なのでぎょっとする。
しかし、彼は地面の凹みに足をとられて転んでしまった。すぐに屈強な男たちに取り押さえられてしまう。
男は喚く。
「くそお、離せっ! てめえら、ただじゃおかねえぞ!」
「黙れ!」
その醜態を、俺はどこかつらい気持ちで眺めていた。
もしかしたら、俺がああやって取り押さえられている世界だってあったかもしれない。
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