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窃盗なんて、やんなきゃいいんだ。どうせ盗んだって大した足しになんないし、すぐに百象隊の警備に捕まってしまう。分不相応なことをするからそうなるんだよ。
でも、俺は窃盗をしなかったんじゃない。窃盗ができなかったんだ。どれだけ生活が苦しくても、やってしまえば捕まる。それが分かってたからできなかった。
別に犯罪を肯定したい訳じゃない。ただ、なんていうか、あいつは何かを変えようとして、俺はしていない。それがちょっと苦しいんだ。
窃盗をしたあいつと、日銭を稼いでいる俺。ただそれだけなら、俺が偉くてあいつは悪い。でも、こうして諦めて生きているだけの俺は、本当に誇れるような人間なんだろうか?
何かを成し遂げるのはいつだって、分不相応なものに手を伸ばす人間だ。
「観念しろ! お前はもう終わりなんだよ!」
取り押さえる巨漢の声が、何故か俺の心に刺さる。
「……終わり? 終わりって言ったか、今」
その瞬間、窃盗犯は不敵な口元を浮かべた。
何だろう。
雰囲気が、変わった。
「ゾウ! ゾウ!」
ゾウ太が急に怯え出す。こんなことは初めてだ。
あいつはもう無力化されているのに、何故か言いようのない不安に襲われる。
男は世界に向かって吠える。
「有象無象共が人を勝手に終わらせてんじゃねえよ! 人生ってのはいつだって、追い詰められてからが本番だろ!?」
「この、いい加減に――」
「――来い! マッジャーダ!」
その瞬間、苛烈な閃光が通りを白く染めた。
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