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翠にはその香りは匂わなくても犬神である焔には間違いなく分かっているはずだ。 「鳳来様いい匂いだったよ」と、花火が笑いながら言うあたり中々いい経験をお持ちなのではないだろうか。 それを翠に耳打ちをしてコソコソ話すのは子鬼の魄だった。 「·········魄。少し黙ろうか?」 魄は少し大人の階段を登りすぎているのではないだろうかと翠は心配になった。 複雑な気持ちで屋敷に戻る為、自分達の匂いを辿り草道を歩き続けるにつれ、焼き焦げた匂いが強くなってくる。 「·········ぅわ。」 昨日、世話になった屋敷は見るも無残な姿へと変わってしまっていた。  焦げた異臭、炭になった黒く崩れた柱。 まさかここに大きな屋敷が建っていて自分達がここで宴に参加し音楽を聴き食事をしたなんて想像もつかない。 「こっち来て」 焔は灯りを消し、花火が二人の手を引っ張り茂みへと隠れる。 暫くすれば遠くから明かりが近付いてくる。 松明を持った誰かが自分達のいた場所へとやって来た。 「······アイツら」 翠と魄の村を襲った北の衛兵と同じ姿をした男達だ。 翠達の事を嗅ぎつけたのだろうか。衛兵達は誰かと連絡を取り合っているのか何かを話しているようだ。    別の何かを探している? 「ココニハモウ·······様ハイナイヨウデス」 「ハイ。ハヤクミツケテ連レ戻シマス」 聞こえた話で分かるのは、高貴な者の様だ。  連れ戻すとは一体·······
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