追憶

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 無機質なガラスの向こうには無限とも思える有機の世界が広がっている。  所々に点在している無機質が景色に美しさを添えていると気が付いたのは二年前だった。 「ある晴れた日の朝に~……」    曲の冒頭部分を口ずさんでも構わない、なぜならこの電車にはこの時間帯は僕一人しか乗っていないのがわかる。  通いなれた通学路、陸上の朝練の時間に合わせて通学していた。 「もうそんな時間に行かなくても大丈夫なんでしょ? 少しはお母さんに楽させてよ」  部活を引退した後もこの時間に通っていることに対し母が唯一漏らした愚痴だった。  日頃のルーティンを気にするタイプでもない、崩れたとからといって陸上の成績やテストの点数が下がるわけもなく、ただこの時間に通学したいという僕の我がままに母はずっと付き合ってくれている。 「でも、これが最後だよ」  ありがとうって素直に言えない自分が恥ずかしい、でもしっかりと感謝はしている。  だから、今日帰ったら花束をプレゼントしようと思っているが、どんな花が良いのかわからない。   でも店員さんに「おススメは?」と聞けば見繕ってくれるだろう。  この心地よい揺れと、肌寒さが残る外気を含んだ電車内に暖房が混ざると、少し気持ち悪さを覚えた。    
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