追憶

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 卒業式は滞りなく終わっていった。  泣く人もいれば、自分みたいに淡泊な表情のまま口パクで歌を唄っているふりをする人もいる。    いつも体育の授業でしか使わない体育館も、この日だけは違って見えた。  卒業証書に書かれた自分の名前を見つめ、練習通りにお辞儀をすると「あぁ本当に終わりなんだな」という実感が今更芽吹いてきた。  変化とは常に起こっている。  でないと、世の中は停滞したままだと思う、いや詳しく言えば停滞でも変化というのはどこかで起こっているハズだ。    それでも僕は変化を好まない、自分は無機質でありたいと思ったこともある。  それが今、抗えない大きな変化に晒されていた。 「えぇ……本日卒業と言いましても、三月の末日までは本校の生徒であるから……」  お決まりの注意事項に祝辞や拍手が重なり、在校生たちはアーチを作って僕たちを送り出してくれている。  この高校から去るのではなく、新たな門出であると教えてもらった。  来月には地元を離れて暮らす生活が待っている人もいる。  今まで頑なに守り続けていた生活リズムが崩れていくのがわかった。 「おい! なに呆然としてんだよ! ほら、後輩たち待っているぞ!」  駐車場に両親が居るとおもうが、電車で帰ると伝えたときは「すきにしなさい」と父が言ってくれた。 「先輩! おめでとうございます! 大学でも陸上続けるんですか?」 「いや、わからない。それに僕じゃぁ……」 「あ、あの先輩! こ、これ受け取ってください……」 「え?」  次々に部の後輩たちから囲まれて話しかけられる。  女子陸上の幅跳びの子から何か言われたような気がするけれど、うるさい男子の声にかき消されてしまう。   「ほらほら! 寂しい先輩はこっちにもいるんだぞ!」 「うわぁ―――! 部長おめでとうございます!」  部長が現れると一斉に取り囲んでいた後輩たちがひけていく、先ほど声をかけてくれた女子の姿は見えない。  
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