追憶

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 帰り道、いつもの道とは違う方角に進んでいく、一瞬呼吸が苦しくなる感覚がしたけれど、すぐに前を向いて歩き出した。 「大丈夫、大丈夫」  通いなれた学校だけど、部活が終わるとすぐに帰宅する生活を繰り返していたので、周辺の地理がまったく把握できていない。 「ハハッ……変なの三起動させて、目的地を目指しながら歩いていく。  この時僕は初めてイヤホンをしないで帰った。   通り過ぎる車の音、まだ背後では賑やかさが収まらない校舎、風が頬をかすめたときに奏でる音色を僕はずっと聞かないで過ごしてきている。 「こんな世界だった?」  休日は勉強ばかりしていた。もちろん、遊びに行こう! と、誘われて行ったこともあるし、誘ったこともある。  学校の近くではなく、少し離れた街に行っていた。  友だちと放課後どこかに遊びに行くといった青春は僕は送っていない。    表情と一緒で淡泊な生活だったなぁ……なんて、振り返ると思ってしまう。 「ふっ、今更か」  そして、卒業式の日に僕は初めて高校生活で寄り道をしていく。  ずっと入学式の日以来から聴き続けていた音楽を垂れ流しながら、歩いて行く、耳にはもうイヤホンは入れていない。  無事に到着した花屋でウロウロしていると、声をかけてくれる店員さん。   「どうしましたか? 何かお探しでしょうか?」 「あ、え、えっと……母に花束をあげたくて……」 「素敵ですね♪ 予算はありますか?」 「そ、そうですね。2000円ぐらいでも大丈夫ですか?」 「もちろん! こちらで選んだお花でもよろしいですか?」 「は、はい! お任せで」  ニッコリと微笑んだ店員さん、テキパキと花を選んでくれている。  財布の中には5000円、十分予算内だった。 「あ、すみません……」 「はい?」
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