追憶

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 この見慣れた駅舎とも今日でお別れかと思うと、どこか寂しさが感じてしまう。  淡泊な学校生活を送っていたつもりだったのに、少しは愛着があったのかもしれない。  まだ地面には薄っすらと雪が残り、最後の冬を感じさせていた。  僕は見慣れた光景から視線を移すと、一歩前にでる。  耳の中では好きな音楽がただ垂れ流し状態のままでいるが、気を紛らわせたいだけなので十分だった。  むしろ好きな音楽でないほうが良いかもしれない、好きならそちらに僅かでも意識が向いてしまうことがある。  だけど、この音楽を三年間聴き続けていた。  古びた錆びの香りと海風が目と鼻を刺激していく、この曲の2分24秒になると電車がホームに到着する。  必ずではないが、高確率でそうだった。朝に家を出るタイミングで再生し流し続けていると、自然とそうなる。  僕は小さく「いくよ」と告げると電車の中に乗り込んだ。
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