三月の彼に

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 それから間宮君はたまに学校に来るようになった。  けれど大体は屋上で寝そべり授業をサボっていた。相変わらずいじめは続いていて、クラスに居場所のなかった私は、屋上で間宮君を見つけると話をするようになった。  バイトが忙しいらしく、朝フラッとだけ来て、お昼を食べてから午後の授業には出ないことも多く、「家では俺が稼ぎ(がしら)だから」と、頼もしい様子で、反面、寂しそうにも見えた。  冷たいグレーの床の上で、間宮君はいつもお弁当を広げて食べていた。  間宮君のお弁当は、鮮やかな赤、健康的な緑、優しい黄、正直な白で彩られていた。ジューシーなトマトに、出汁の染み込んだほうれん草、甘そうな卵焼きに、白米。手作りと思われるミートボールが光っていた。 「すごいきれいなお弁当。間宮君のお母さん、すごい」 「え、あー、これ。俺が作ったの」  意外すぎて言葉が出ない。 「何固まってんの。失礼なやつだな」 「ごめん……でも、美味しそうで」 「母さん、料理下手なんだよ。だから俺が家では作ってる。バイトでも腕が上達したしな」  そう言う間宮君は、大きな口を開け豪快にミートボールを頬張った。  屋上にいると、みんなが知らないだろう間宮君の一面を知れた気がして特別な気分になった。
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