三月の彼に

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「ごめん、怖いよな?」 「怖くは……ないけど。痛そう」 「もう痛くないよ。昔、親父と喧嘩してやられたんだ」 「どうして、喧嘩したの?」 「……母さんが殴られてたから」 「……」 「まあ、そっから喧嘩強くなったけど」 「そんな」 「藤波もあんまここに来ないほうがいいよ。暴力沙汰はごめんだろ、俺なんかといると――」 「誰も助けてくれなかったの? 間宮君のこと」 「……」間宮君は押し黙る。 「……わからないけど」  私は考えるよりも前に、言葉を発していた。 「誰かを守るための力が、それを暴力と呼ぶのか、私にはわからないけど……」  もう痛まないと言っている、間宮君の首の傷が、そう言うほどに私には痛々しく思えて、なぜだか涙が溢れてきた。 「なんで藤波が泣いてんの?」  間宮君は突然泣き出した私に驚いた様子で、慌てて、シャツで私の涙を拭おうとする。その腕に触れ、私は間宮君の目を見て言った。 「間宮君は怖い人なんかじゃないよ。心のすっごく優しい人だよ」  秋の高くて青い空に、白い絵の具で描いたみたいな雲がツーッとまっすぐ横に、どこまでも広がっていた。
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