13人が本棚に入れています
本棚に追加
「申し訳ございません。ご予約の商品も含まれておりまして」
「だったら『在庫なし』って表示するべきなんじゃない?」
「申し訳ございません」
「いいよもう、謝ったってどうせないんだし!」
言うなり通話は切れた。店長が「ま、仕方ないよね」とつぶやく。
店の在庫表示は出版取次と連動しているため客注品も含まれている。客注品として入荷したものと店頭の取り置き商品が混ざっているので、分けて表示するのは難しいそうだ。
「これ、どこかしら?」
初老の女性が新聞広告の切り抜きを見せた。テレビで紹介された『膝・腰やわらか体操』だ。
「エスカレーターを越えた向こうの区画にございまして」
言い切らないうちに女性は行ってしまった。レジ前にお客さんが立ったので追うのはあきらめたが戻ってくる予感しかしない。
案の定、女性はすぐにUターンしてきた。接客中にもかかわらず「どこにもないじゃない」と話しかけてくる。
「健康書の棚はエスカレーターを……」
「ご案内しますよ」
店長がさっと出てくれた。女性は「本当にわかりにくいわ」と言いながらついていく。
「これってどこ?」
次の男性客も同じ書籍の問い合わせだった。案内したいけれど長蛇の列ができている。自力で売り場に行ってもらわないと。
「エスカレーターを越えた向こうの健康誌の棚にございまして」
「そんなのどこにあんだよ」
だめだ、案内しよう。お客さんを待たせるけど仕方ない。カウンターから出ようとすると大学四年生の清水くんが僕を制した。
「これに案内させます」
ラグビー部で屈強な体つきをした清水くんがおもちゃのねこを床に置いた。耳とひげはあるけれど体は金属製でつるりとしている。彼はしゃがんで話しかけた。
「書籍検索。膝・腰やわらか体操」
「照合中……」
目の奥が点滅している。男性は不思議そうな顔をした。
「なんだこりゃ?」
「本の案内ロボット、白玉一号です。テスト導入なんですがお付き合いいただけますか?」
「いいけどよ」
言い方はぶっきらぼうだが興味があるらしい。垂れたしっぽが左右に動いた。胴体としっぽの先にも小さなローラーがついている。
「在庫ゴザイマス。ゴ案内イタシマス」
可愛い音声が流れて白玉一号は走り出した。清水くんとお客さんがついていく。
あっけに取られているとレジ前にお客さんがあふれていた。あわてて会計を進めたけれど、大福はじっと白玉一号の行き先を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!