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白玉一号は大福の前で右往左往した。案内されていた女性の二人組も困っている。
謝って大福を抱き上げたけれど、あっさり逃げられた。今度は白玉一号に覆いかぶさる。
「案内してるのにダメだってば」
「そっちにナンナンはないにゃ。散歩に出てるにゃ」
「散歩って?」
髪の長い人が大福に聞いた。女性誌の『Nan.Nan』を探しているみたいだけど散歩ってなんだ。
「あっちを歩いてるにゃ」
大福の視線の先に『Nan.Nan』があった。別のお客さんが抱きかかえている。「その雑誌を返してください」なんて言えるはずがなく、あせって大福を捕まえた。
「申し訳ありません。先ほど最後の一冊が売れまして」
「そうなの? この子、案内してくれたけど」
「システム上、在庫が0になるまでタイムラグがありまして」
システムなんてわからないが適当に説明するしかない。大福はなおも散歩中の『Nan.Nan』を見ていて変な汗が出る。
どうか早く会計を済ませて下さいと祈っていると、案内を終えたつもりの白玉一号が戻ってきた。僕は大福を抱いたまま笑顔を作る。
「取次に在庫があれば注文できます。お調べしましょうか?」
「お願いします」
「散歩が終わりそうにゃ」
大福、お願いだから黙ってて、と思いながら客注デスクに向かった。抱えられた雑誌がすぐそばを通っていく。
結局、一時間後に『Nan.Nan』は元の雑誌棚におさまっていた。よその家に旅立つことなく散歩を終えたらしい。
女性誌の前でがっくりしていると清水くんも覇気のない声で言った。
「白河さん、こればっかりはもう」
「仕方ないよね」
せっかく白玉一号を開発してくれたのに僕らは「在庫1」に振り回されている。自力で「在庫1」を探していた時より心労が増えたのはなぜだろう。
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