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白玉一号へのクレームは日に日に増えた。案内途中でルート変更をして来た道を戻ったり、売り場まで案内したのに商品がなかったりで、お客さんは怒っていた。
大福は会計の途中であくびをしても怒られないのにロボットと人間は損だと思う。
清水くんは毎日改良を重ねたけれど、みんな次第に白玉一号へ興味を向けなくなった。ミスがあるといえ助かっていたのになあ、と小屋にいる白玉一号を見ていると、斎さんが「あら」と声を漏らした。
「見てこれ。客注品なのに破れちゃってる」
取次に注文した『アイスダンスマガジン Vol.2』の裏表紙が破れていた。これじゃお客さんに引き渡せない。
「店頭分も入荷していましたよ。売り場を見てきましょうか」
「お願いしていいかしら」
開店してまだ十五分だ。店頭分は二冊あったから一冊くらいは残っているはずだ。
スポーツ誌は売り場の一番端にある。書店の商品はコリオスショッピングセンターの直営店ならレジを通るので、そちらにいってませんようにと駆けていくと、面陳ケースが一か所開いていた。
棚差しになっているのかもと上段を確認したけれどなかった。予約を受けたのは僕だ。気難しそうな女性のお客さんで「美品でお願いね。発売日に取りに行きますから」と言われていたのに。
お客さんに連絡するのが先か、取次に電話して破損品の交換をお願いするのが先かと悩んでいると、大福が背中に飛び乗った。
「わっ、急に乗らないでよ!」
「シミズが持ってるんにゃ」
ブックトラックの前に立った清水くんが雑誌に手をかけていた。そうか、語学テキストとパズル誌の入荷日が重なったから他のジャンルはまだ出せていないんだ。
「清水くん、それお客さんに……ってうわっ!」
売り場に向かう彼を追いかけようとすると白玉一号が音もなく前を横切った。危うくお客さんにぶつかりそうになる。
「危ないだろ!」
「ごっごめんなさい!」
高速で謝り倒していると清水くんが戻ってきた。
「さっきの雑誌、客注品が痛んでたから抜き取りたいんだけど」
どうぞ、と言われて棚を確認した。一番前に二冊、きれいな状態で重ねられている。よかった、今日のうちにお客さんに渡せると安堵していると、子供の泣き声が聞こえた。
「ベルトほしい~!」
「お店にありませんって言ってたでしょう」
「さがしてよ~ゴウジュウレッドのベルトー!」
泣いている子供を女性があやしている。そこへ白玉一号が通りかかった。「さがして」に反応したのか目を点滅させて「照合中……」と音声を出す。
「白玉一号、その人たちは違うんだよ」
「ねこのロボットだ! かっこいー!」
泣きはらした顔をぬぐって子供が僕らの方に突進してきた。白玉一号は目を光らせて「検索デキマセンデシタ。案内ヲ終了イタシマス」と急に方向転換をする。
「きゃっ何これ!」
別の女性客が書棚の角を曲がってきた。白玉一号はまた僕らの方へ急転換する。僕の足元にロボットと子供が同時に突っ込んでくる──
「危ない!」
声を上げたのは清水くんだった。筋肉質な体で子供を抱え上げ、僕と大福にダイブした。
「いったた……」
「白河さんすみません!」
「タイヨウはどんくさいにゃ」
大福は書棚に飛び移って無事だった。子供も泣き顔だけど怪我はなさそうだ。ほこりを払って立とうとした時、抱えた雑誌が目に入って全身から血の気が引いた。
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