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「折れてる……」
あわてて戻したけれど表紙の折れ跡は戻らなかった。最悪なことに二冊とも折れてしまっている。
「前を見ないと危ないわねえ」
予約をした女性が現れた。腕には折れた雑誌、客注も破損品。言い訳の仕様がない。
「発売日に渡せるって言ったわよね!」
「大変申し訳ございませんでした」
客注カウンターで僕と清水くんは頭を下げた。斎さんは破損品の取り寄せができるか電話で取次に確認している。
「明後日には到着するそうです。入荷次第お電話させていただいてよろしいでしょうか」
斎さんは丁寧に説明したが女性の怒りはヒートアップする一方だった。
「発売日に来るっていうからわざわざ予約したのに!」
「その本はお医者に行くんにゃ」
頭を下げている僕らと女性の間に大福が入った。
「医者って何の話よ!」
「大福はけがしたらお医者に連れていかれるにゃ。お医者はキライだけどピカピカの大福になるんにゃ」
「医者に行くのは当然でしょう」
「本もけがしたらお医者に行くんにゃ。直らなかったらピカピカの本が代わりに来るにゃ。ピカピカはいやかにゃ?」
「構わないけど……」
「二回寝たらピカピカが来るにゃ。電話は大福にお任せにゃ」
「そう……ならお願いするわね」
トーンダウンした女性はあっさりと客注伝票を受け取って引き上げていった。僕と清水くんは「大福、えらい!」と同時に抱きつこうとしてかわされる。
「すみませんでした。白玉一号と子供がぶつかったらまずいと思ってとっさにあんなこと」
肩を落とした清水くんはぎゅっと口を噛んでから言った。
「白玉一号は回収します。もうすぐ就職でここを辞めるから最後に恩返しがしたかったんですが、ご迷惑ばかりで申し訳ありません」
斎さんがそっと彼の背中をなでた。なんだか胸が苦しくなって僕は彼の広い肩に手を乗せる。
「白玉一号は大活躍だったじゃない。改善点はあるけど回収するなんて言わないで」
「白河さん……」
「僕も不注意だったし白玉一号も走行音を出した方がいいかもね。辞めるまでまだ時間はあるよ」
「……はい」
清水くんは泣きそうな顔で僕を見た。情熱のこもったまっすぐな目、僕もいつかこんな眼差しで働ける日が来るだろうか。
白玉一号のアナウンスが聞こえて僕らは小屋の方を見た。すぐに出動するのはまずいんじゃないかと思ったけれど、背中に大福が乗っていた。「にゃおーん、にゃおーん」と鳴き声を上げながら文庫フロアへ向かっていく。
「しばらくはあれでいいんじゃない?」
僕が笑いかけると清水くんも目元をぬぐって笑ってくれた。文庫棚の向こうから大福の鳴き声とお客さんの「ありがとう」という声が聞こえる。
「案内ヲ終了イタシマス」
大福を乗せて戻った白玉一号は両目を点滅させていた。表情なんてないのに笑っているようにも見えて、僕らは顔を見合わせて笑いあった。
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