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コリオス書店には、白ねこ書店員の大福が勤務している。
「いらっしゃいませにゃ。コリオスアプリはお持ちかにゃ?」
大福はアプリの案内を前足で押さえた。僕が本を受け取ってバーコードを読み取ると、女性客が興味深そうに見た。
「これを読み取るんにゃ」
大福がQRコードのついた冊子を差し出すと、お客さんは「ありがと」と笑顔になった。人が配ると多くのお客さんは拒むのに、大福が渡せば喜んで受け取ってくれる。
僕、白河大洋とパートナーの大福はコリオス書店に勤めてちょうど一年になる。
「ありがとうございますにゃ」
大福の首輪に埋め込んだランプが点灯した。首輪には位置情報を取得するチップが組み込まれ、僕たち飼い主のアプリと連動している。
「いいねー大福くん。おかげでうちのアプリ導入数はぶっちぎりの一位だよ」
店長は満足げに大福の背中をなでた。毛の流れを無視するので大福が嫌そうな顔をする。
「電話での問い合わせが急に増えたんですがアプリが関係してるんでしょうか」
逃げようとした大福を制すると、店長はマニュアルを取り出した。
「昨日からアプリで在庫が確認できるようになったんだ。『在庫あり』は平積みするくらいあるとき、『在庫僅少』は棚差し程度、あとは『在庫なし』だね。試しに『月刊近未来』を検索してみて」
アプリを立ち上げて雑誌名を入力すると『在庫僅少 お問い合わせ下さい』のあとに電話番号が表示された。
「平積み商品はいいとして残り一冊なんて店頭にあるか怪しいでしょ? それの保険ってこと」
「確かにそうですね」
僕が苦笑いをすると社員の斎さんも困ったように微笑んだ。「在庫1」の表示に振り回されるのは毎日のことだ。
「一時間ごとに更新されるけどタイムラグはあるし、結局は店頭在庫を確認するんだけど」
コール音が鳴り、僕は電話に出た。
「コリオス書店、白河でございます」
「『月刊近未来』の取り置きをお願いします」
「申し訳ございません。店頭分は完売いたしました」
「アプリに在庫ありって出てるけど?」
店長と顔を見合わせた。画面には『在庫僅少』となっている。
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