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2日ぶりに帰った我が家では、柴本が待っていた。
「お疲れさん。メシは冷蔵庫にあるから温めて食えよ」
長椅子に座ったまま同居人が言う。風呂上がりなのか、まだ水気の残る毛並みをバスタオルでがしがし拭っている。
ほんの一瞬、視線が合ったかと思うと、すぐテレビのニュース番組の方へと戻った。
あれ、いつもより何だか少しよそよそしい?
風呂に入ってから夕飯を準備していると、正面の席に柴本が座った。
冷蔵庫から出したビールの缶を開け、中身をコップに注ぐ。
「飲むか?」
わたしは首を横に振った。酒はあまり好きじゃないし、ビールの良さもよく分からない。
レンジで温めた惣菜と白飯を食べるわたしの動きを、柴本が目で追ってくるのが気になって仕方ない。
一体どうしたのかと問うわたしに
「あー、答えづらかったら答えなくて良いんだけどよ」
ほんの僅かな間、視線を宙に泳がせてから向き直り、咳払いをひとつ。
「今朝、仕事があって、そん時にお前の勤め先の近くを通ったんだ。で、一緒に歩いていたあの青い毛の猫、那由多の、えっと――」
後輩だよ。別に恋人とかじゃないからと先回りして答えると
「ああ、そっか。いや、那由多に友達が出来たのは、おれとしても嬉しいことなんだけどな。ただ――」
再び視線を宙に泳がせる。
「悪ぃ、何を言おうとしたのか忘れちまった。
おれはもう寝るけど、お前も早く寝ろよ」
空き缶とコップを濯いで、足早に去ってゆく。
そうしてわたしは、冷めかけた夕飯と一緒に取り残された。
一応、断っておくが、わたしと柴本も恋愛関係の繋がりではない。
単なるルームメイトで、家賃や水道光熱費を折半するだけ――だと思っていたのだけれど、どうも何か違うようだ。
一緒に暮らし始めて10ヶ月。
変化が目に見えて起こりつつあった。
(了)
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