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「でも、ありがとうございます。おれのために怒ってくれて。ちょっとすっきりしました」
さっきと違って、引きつった作り笑いではなさそうな笑顔がこっちを向く。
出来ないことは出来ないって言ったって良いんだよ。
むしろこうやって無理を続けると、それを当然としてハードルをどんどん上げるクズも世の中にはいるんだ。渡部係長みたいに。
「そうかもしれないけど――ああ、鴻さん、河都の生まれじゃないっすよね。ちょっと喋り方違うし」
わたしの生まれ故郷は、ここ河都市から遠く離れた北の方にある。人間種ばかりが住む地域だったこともあって、獣人からすると発音が難しい音やイントネーションが言葉の中に含まれているらしい。
トラブルを防ぐため、出来る限り河都の人達の喋り方に寄せるようにしているけれど、どうしてもおかしな部分が出てしまう。
「それじゃ、ピンと来ないのも仕方ないっすね。
『猫虎族は気まぐれ。アテにならない。好き放題に場を引っかき回して飽きればどっかに行っちまう』って、河都ではよく言われるんですよ。
だから、就活で種族を理由に弾かれることも多いんです。おれも何社も落とされて、やっとここに受かりました」
そんなの、法律に違反していないか? なんか――ほら、種族雇用機会均等法とかあるじゃないか。
実際、転職サイトなどを見れば獣人の採用枠が用意されていたり、あるいは獣人に特化した転職エージェントのサービスがあったりもする。けれども
「その枠は犬狼族のためにあるようなモンです。
良いことは連中が粗方かすめ取って、おれ達はそのおこぼれに与ってる感じです。ま、言ったってしょうがないですが」
今まで何も知らなかったわたしには、諦観の滲む笑顔にどう答えて良いか分からなかった。
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