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6.
「シャワー先にどうぞ。水回りは綺麗にしてますんで、大丈夫っす」
実のところ内心で疑っていたのだが、ドアを開けて数秒前の自分を少しだけ悔いた。
ワンルームのアパートによくある、トイレと風呂がセットになったタイプ。確かに思ったほど汚れてはいない。
天井にちょっと黒カビが生えかけているのと、角の辺りにホコリと青みがかった抜け毛が少し積もって見えるくらいで、一人暮らしの若者の住まいとしてはそこまで酷い部類ではない。
温水を頭から浴びながら思い返す。
会社では『猫虎族だから気まぐれで適当』などと言われたくなくて、必死で頑張っている猫塚くん。
その皺寄せが、この部屋なのだろう。
仕事に心血を注ぐあまり、プライベートを疎かにせざるを得ず、こうなってしまった。
わたしはと言えば、ルームシェアしているおかげで家事の負担が半分以下に減っているだけだ。
同居人の柴本は、かつて陸上防衛隊に10年近く勤めていた。銃の使い方や格闘技その他の訓練に先立ち、完璧な整理整頓、掃除術を叩きこまれた彼のおかげで、快適な生活を享受できているに過ぎない。
ディスペンサーからシャンプーを取って泡立てる。
あ、これ獣人用だ。
全身を毛皮に覆われた人たちのためのもので、毛のない肌には少々刺激が強すぎる。
家でも時々間違えて、柴本のを使ってしまうことがあるのだから、気にするほどのことでもない。
全身に塗り広げてからシャワーで洗い流していたところで、ガチャリとドアが開く音がした。
――え?
シャワーカーテンを開けて、猫塚くんが顔を覗かせる。
「鴻さん、人間用のボディソープ見つかったんで使ってくださ」
入って来るなぁぁぁぁ!!
「ごぼぼぼぼぼぼぼ!?」
勢いあまって家主をシャワーの温水で撃退してしまった。
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