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7.
「すみませんでした」
わたしと入れ替わりでシャワーを浴びた猫塚くんが、床に平伏して土下座のポーズで謝る。
柴本もそうなのだが、全身を毛並みで覆われているからか、獣人たちは肌を見せることにさほど抵抗がないらしい。
もういいよ。床のホコリとか付いて汚れちゃうから。
とりあえず体起こして。
まだ毛皮が乾いていないのか、パンツだけ穿いてあとは何も身に着けていない。
あとで聞いた話では、普段は部屋では自前の毛皮だけで過ごしているらしいので、いつもに比べれば配慮してくれているのだろう。
わたしはと言えば、人前で肌を晒すのが好きではなく、彼のTシャツを貸してもらった。
毛皮に覆われた体でも脱ぎ着が楽なように、サイズはかなり大きめだ。油断すると襟から肩がずり落ちそうになるけれど、文句は言えないし、着心地自体は悪くない。
「もう寝ましょうか。おれ、床で寝るんで鴻さんはベッド使ってください」
いやいや、寝苦しいでしょ。それじゃ疲れが取れないだろうし。
寝ころんで、壁際に寄って隙間を作る。ベッドの幅は思ったよりもあるから、少し狭いけれど大人ふたりが寝るのも難しくはない。
「えっと――」
視線を宙に泳がせる猫塚くんに背を向ける。人間は好みのタイプじゃないって前に言っていたらしいし、問題はないだろう。
明りを消してしばらくの後、ベッドが軋むのに続いて、少し湿り気の残る毛皮の感触が来た。
多少は幅に余裕があるとは言え、どうしても体が当たってしまう。
「鴻さん、その、えっと――、今日は、ありがとうございました」
普段よりリラックスした声に応える言葉が見つからず、ふさふさした毛並みに覆われた腕を指先でポンポンと叩いて返す。
少し考えてから、大丈夫だよ、と言葉を掛ける。
種族とか関係ない。猫塚くんは頑張ってるの、ずっと見ていたから。
背中越しに聞こえる呼吸音が、少し乱れた。
「あの、鴻さん――」
どうしたの?
「もうちょっと近くに寄っても良いですか? 落ちそうなんで」
いいよと答えると、ふわふわした毛並みが腕や足に当たる感触。そのすぐ後に、穏やかな寝息が聞こえてきた。
疲れていたのだろう。
小さな声でおやすみ、と声を掛けて、わたしも目を閉じた。
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