ひとりのはじまり

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 今日から私はひとりだ。  一人娘も今日、大学進学で上京した。  家を離れる最後の最後まで、 「お母さんひとりで本当に大丈夫?」  と何度も聞いてくれた。優しい子だ。  夫は酒を飲んで暴れるクズだったが、あの子を産ませてくれたことだけは感謝している。  あの子には、置いていく故郷のことは気にしないで欲しい。遠い都会で、新しい土地、人間関係に馴染むことだけに心を配って欲しい。  ここに置いていくものは――母親である私のことも、しばらく思い出さないくらいでいい。  私が残ったこの、大きいだけで古い家。  広い……古臭い家具が並んだ居間を歩き、開かれている窓から外を眺めた。  退屈な田舎の景色が見えるだけの窓。  4月だというのに雪がちらつきそうな冷えた空気が流れ込んで来る。  私は一度仕舞って、また引っ張り出してきたダウンジャケットの胸を重ねるようにした。 「一人で大丈夫?……か……」  私は小さく笑った。  大丈夫に決まっている。  私はずっと、一人でこの家を守ってきたのだから。  
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