ひとりのはじまり

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 生計は、ビニールハウスで花を育てることで立てている。贅沢はできないが、あの子への仕送りをするくらいはできる。それをこれからも続けるだけだ。  そのとき、最近手に入れた、スマートフォンがリズミカルに震えた。  小さい字が見難くなり、老眼鏡をかけて画面を見る。  まだ娘としか繋がっていないから、当たり前だが娘からのメッセージだ。 『無事に新幹線乗れたよ』  親指を立てた絵文字。思わず顔が緩む。  もっともっと離れなさい。  ここから、もっと遠くに行きなさい。  しがらみなんか捨て去って、自由に羽ばたきなさい。  ここは、お母さんが守るから。  もう一度、楽しげにスマートフォンが振動した。 『お母さん、本当に一人で大丈夫?』  心配症なんだから。  苦笑いして、娘に教えてもらった文字入力でメッセージを送る。 『だいじようぶだからもうしんぱいしないで』 『漢字変換教えたじゃん!』  ええと、こうだったかな……? 『駅弁食べたら』 『突然の駅弁www』  wは、笑ってるって意味だと教えられた。  便利な世の中だ。  離れた娘ともこうして、隣にいるみたいに気軽に会話ができる。  もう一つ、メッセージが来た。 『後始末、お母さん一人にやらせてごめん』  
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