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『お母さんに任せなさい』
そう送ると、老眼鏡を外してスマートフォンと並べてテーブルに置いた。
もうそろそろ大丈夫だろう。
開けはなっていた窓を閉め、ゆっくりと廊下へ向かう。その壁はぽつりぽつりと凹んでいる。夫が殴ったり蹴ったりして作った傷だ。
地下のボイラー室に繋がるドアを見つめる。万が一のために、板を何枚も渡して、釘を打ち付けてある。
ドアにそっと耳をつけ、音に耳を澄ます。
――無音。生きているものの気配はない。
夕べ、睡眠薬入りの強い酒を浴びるように飲んだ夫が、地下で眠っている。
たっぷり用意した練炭に火をつけて、そばに並べておいたから寒くはなかっただろう。
ちょうど半日ほど経った。
念のため、一階は窓を開けて換気しておいた。
この計画を言い出したのは、娘だった。
進学で家を離れ、家にひとり残される私が心配でたまらないと。私があいつに殴られると思うと、何も手に着かないと。
睡眠薬を用意したのは娘で、練炭を買ってきたのは私だ。
娘が心配している、後始末をどうするかは、もう考えてある。
窓から見えるビニールハウス。あそこに埋めればいい。
きっと綺麗な花に姿を変えるだろう。
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