被った猫が【人出】しました

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 昼休み後の五時限目、春の始まりにふさわしい陽気の教室は今年度いっぱいで退職を迎えるおじいちゃん先生の子守唄に包まれている。 はあ、退屈。そう思った瞬間、教室内に聞き覚えのない声が響きわたった。 「あー眠い眠い」  クラスメートはざわつく。誰の声だか私にはわからなかった。すると先生が何かに気付いて「窓を閉めろ」と叫びながらピンクのチョークをロッカーへ投げつけた。 にゃあん、と鳴き声が聞こえて私はやっと理解できた。逃げたのだ、猫が。 「じろじろ見ないでくれる?」  私、神木ありすの猫が。 「猫係は神木さんを(なだ)めてちょうだい。他の皆は教室から出ないように。窓も全部閉めて」  立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。この喩えがぴったり当てはまるようなお嬢様系の私、神木ありすが、だらしなく脚を組み悪態つく。 「ピンクのチョークが付いてるはずだから皆の猫にも探させてね」 「ちょっと! 勝手に私の猫を汚さないでよ」  どうしよう。良くないことだってわかっているのに身体も言葉も思い通りに動かない。ううん。、にしか動かない。 私はイスを倒して立ち上がった。そのとき、ぽんと肩に手が乗った。猫係の前田さんだ。 「ありすちゃん、お昼の後は眠いよね」 「はあ?」  肩をあげて手を振り払う。 「イライラしちゃうの、わかる気がする」 「……えらそうに」  私はどかりと机に座る。前田さんは被っている猫がおっとりしていてそれに、素の性格との差がないことから猫係に選ばれた。「私が必死に大人しい性格を演じているのに前田さんはずるい。素直で愛嬌があって、優しいのは何か裏があるんじゃない」ってずっと思ってる。「でも猫係に選ばれたってことは本物の親切でしょ、心がきれいなんでしょう? 私だってそうなりたい。だから猫だけでもエレガントな子を選んだのに」どうして私は「上手くいかないの?」ああ、頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。 「うーん、あのね、のんびり屋でとろいの、私」 「なによ急に」 「あとめんどくさがりで、いろんなものに関心がない。ねえ、なんだか猫みたいでしょう?」 「あざといアピール? ウケる」  ああ、そんなこと言っちゃダメなのに。周りのクラスメイトが私の猫を必死に探してくれている、同時に聞き耳を立てているのもわかってる。 「じゃなくて、猫と波長が合ってるの」  被っている猫が気まぐれに出て行くのは、いつ誰に起こっても不思議じゃない。明日は我が身、だから皆も協力してくれる。でも「どうして私なのよ、努力してない子も多いのに」どうして。
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