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胴の両面を皮で挟まれた三味線は構造上、太鼓に近い。弦を弾くだけでなく、胴を打ち拍子を取ることで豊かな音が生まれる。
三味線は弦楽器と打楽器の要素を併せ持つ、いわば琴と太鼓の間をゆく楽器といえる。
伝来の元となった南方では蛇の皮を用いるとも聞くが、犬猫の強靭な皮に改良したからこそ可能となった演奏もあるのだ。
獣一匹にも、躰の中に様々な性質の部位がある。
その大きさから一匹で三味線何台かを賄える犬の皮は、一匹につき一台分を過不足なく採ることで硬い部分と柔らかい部分を併せて取り込むことのできる猫の皮に、質の上では敵わない。
中でも、傷のない若い猫、仔猫であるほど奥深い音を奏でる楽器となる。
道行く折、親父は野良猫を指し、ありゃあいい三味線になる。と独り言ちることがあった。
発達した筋肉を持つ猫の皮が最上級だと、後日与助は知った。
それらの知識から、学び舎で窮地に立った与助は自問自答した。みちは若い猫であっただろうか。肉の締まりはよかったか。
そうでなければうちじゃない。否、三味線の原皮にはなっていない。出荷の都合がつかなければ、それこそ単なる殺生に落ちてしまうのだから。
それらの考えが瞬時に与助の脳内を占めたが、彼は固より寡黙な性分。
泣き顔の生稲にも、悪意で場を唆す級友にも、正義の眼差しを持つ仙太郎にも、返す言葉が見繕えなかった。
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