(一)

2/5
前へ
/25ページ
次へ
 そんなことが頭の中をよぎったが、実際には違った。  高齢の男性が「お話を伺えませんか」とジャケットの内ポケットから黒い手帳を見せてきた。二つ折りの手帳が上下に開き、金色のエンブレムが見えた。エンブレムには「警視庁」とあった。  怪しい二人組だが、確かに二人組としては、それらしい二人組といえなくもなかった。 「原冬真(とうま)さんという方をご存じですか」  年配の刑事がそう言った。  原冬真……。その名前は忘れていた。というか、忘れようとしていた。とはいえ、その名前については聞き覚えがあった。聞き覚えがあるだけではない。よく知っている名だった。 (続く)
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1165人が本棚に入れています
本棚に追加