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No.03
「今回の任務はカウラの住民からの依頼だったが、討伐する魔物の増減が激しい。その件に関して聞き込みをしてほしい」
「…分かりました」
カウラといえば、フォレスタを抜けた先にある小さな村で、別名、森の村と呼ばれている。柵付きの古い木造建ての民家が並ぶ、昔ながらの風景をそのままに引き継がれており、都会の空気が運ばれてくる事のない、俗にいう田舎だ。シウ達も何度か訪れていた。
「では明日、朝すぐにカウラに向かいます。連絡は…」
「いい。すぐに発ってくれ。本日もお疲れさん、ゆっくり休んでくれ。散」
「では、失礼します」
リヒトが一歩後ろに下がり、頭を下げる。
「…失礼します」
次いで、シウも同じく頭を下げた。どうやら、今度こそ本当に終わりのようだ。リヒトは振り返り、出入り口に歩いていく。シウも斜め後ろを付いていく。ルーザーはその背中に手をひらひらとさせて、部屋から出ていく二人を見送った。
*****
二人一組ということもあり、寝室も二人で使う。息を合わせるためのは、こういったことも必要だというルーザーからの謂れだ。最も、口実は建前だけであって、実のところ、単純にこの城の部屋数が少ないからである。壁にあるスイッチを押すと、天井にあるランプが作動して、燃料を燃やして火が灯った。リヒトは壁際にある椅子に座り、机に向かって筆を走らせる。早速、報告書を始末しているらしい。シウは自分のベッドに腰を下ろした。
「ふあぁ…疲れた…」
大きな欠伸をして前屈みになるシウ。瞼には力がない。疲労感を乗せた声色から、大分気を張っていたようだ。これはまだマシなほうで、以前は、それこそ死んだようにすぐに眠りに落ちていた。
「…今日の魔物の討伐についてだが、」
ややあって、リヒトが、口を開いた。シウが彼を見る。
「改正すべきところを発見してだな」
「…自室に戻っても説教かよ。聞きたくない、ヤダネ」
「反省の場を設けられる場所でもあるからな。その日に伝えておかなければ、お前は翌日になればきれいさっぱり忘れてしまう」
「おま、言い過ぎだっての。人ってのは聞きたくないことは流す習性があるんだって」
「ほう、オレの教授は受けたくないというのか」
リヒトが手を止める。
「お前の鳥頭に隅から隅まで金槌で叩き込んでやろうか」
「…ごめんなさいさすがに死ぬから止めて」
声が低くなった彼がこちらに顔を向けていなくても、どんな表情をしているか感じ取れたシウは、危機を察知して謝罪をする。再び筆を滑らせ始めるリヒト。書類を書き終え、筆を置いてシウの方に体を向けた。
そこから、長い長い話し合いは始まった。
*****
「ふ、ああ~ぁ~…」
手早く身支度をし、確認を済ませ、部屋を出た。猫背で歩きながら、シウは大あくびをする
「だらしがないぞ」
対照に、リヒトは変わらず背筋を伸ばし、足取りはしっかりとしていた。
「しゃんとしろ」
「…大体、寝不足なのはお前のせい……」
「煩い。オレも同じだ」
反論を、用紙を丸めて投げるくらいあっさりと切り捨てるリヒトに、眠気で頭が回らないものの紙を拾い文句で対抗しようとするシウ。既にいつものお決まりパターンとなっていた。返ってくる言葉といえば、
「何なら、一発いるか?」
拳を眼前に差し出し、許可はなくとも今にでも動きそうな彼に、シウ。やはり、不服ながらも気を引き締める。目覚まし、という意味であると信じたいところだが、完全に目が本気を訴えていた。
「分かったよ、しゃんとするよ…」
渋々了承して、背筋を伸ばす。それでも眠いものは眠いのだと、シウはひっそりと愚痴を溢した。
*****
リダウトからフォレストを東へ歩くこと約二十分。二人はカウラに到着した。古びた木造の民家が立ち並び、木の壁には苔が生えており、所々黒ずんでいる。木の囲いは各民家に設置されており、扉の斜め前には、同様に古びたポストがあった。草木の間から木漏れ日が燦々と降り注ぐ。穏便で平和な、喧騒とは無縁の、木々に囲まれた自然豊かな村。中央に、カウラ案内の立て札が立てられている。
「さて、ルーザーさんからの頼みもあるが、オレは調べものがある。お前は、聞き込みをしていてくれ」
そう言うと、足早にとある建物に向かった。
ここには、リヒトの書斎がある。見た目は他の民家と変わらない。鍵には特殊な魔導式を掛けており、本人にしか解けない仕様となっていて、どんな破壊力を持った道具や武器でも壊れることはないという。構造がどうなっているのかは、リヒトしか知らない。一度、シウも踏み入れたことはあるが、そういえば案外散らかっていたと感じた記憶があった。
(よし、)
聞き込み、といっても、具体的な内容を知らされていない。ルーザーは確か魔物の増減と言っていた。だとしたらそのことを尋ねればいいのか、かといってどう説明をすればいいか分からない。そもそも自分はリダウト歴は浅い故、リダウトに長く勤めている二人より環境には詳しくないのだ。そこまで難しくは考えられない…、いや、考えていない彼は、とりあえず投げ槍でもいいので村人に当たってみようと、近くの女性に声を掛ける。
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