2007年 春

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 講義の申し込みを済ませて土日を寝溜(ねだ)めで終えると、翌週からすぐ、申し込んだ時間割通りの講義が始まった。  講義はまぁ、そんなに難しくなさそうだった。高校以来で久しぶりの授業に不安もあったけど、ついていくのに問題はなさそう……  教室を暗くしてスライドにパワーポイントの資料を映す先生もいて、ひたすら黒板に書いていた高校の授業と違いを感じた。大学ってそういうものかもしれない。  音楽概論(がいろん)とか西洋音楽史概説(がいせつ)とかの必修科目、教養科目で選んだ発達心理学、選択科目の総譜奏法でハ音記号の楽譜を読みながら全席に配置されているエレクトーンで弾いたり……  そしてレッスン初日がやってきた。  今本先生とは、その日が初対面になる。大学構内をめぐってレッスン室を探し当て、防音の重いドアを開けた。  グランドピアノが2台、横に並んでいる。  レッスン室に今本先生の姿は、まだなかった。  初めて見る先輩が2人いて、グランドピアノの後ろに一つだけ置かれた長机に並んで座っていた。  1人は、背が高い男の人だった。ジャケットをラフに羽織(はお)っていてさり気なくお洒落。  長い脚が長机の下に収まらずに投げ出されていて、座っていても長身なのが一目(ひとめ)で分かる。180cmは(ゆう)に超えていそうな感じ。顔の()りが深くて、肌は少し浅黒い。  もう1人は、綺麗な女の人だった。痩せていて少し小柄で、黒のトレンチコートがよく似合っていて、目が大きくて顔が小さくて、上品な微笑みをたたえた(たたず)まいが美しいひと。 (音大は美貌揃(びぼうぞろ)いだよって聞いたことがあるけど、本当なのかもしれない……音高も美人が多かったけど、音大はもっと上をいきそうだな…………)  先輩たちの容姿端麗ぶりに、何だかくらくらした。
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