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私はその年、国橋音楽大学のピアノ専攻に入学した。
音大を受験するなら普通、志望の音大で教鞭を執る先生から直接指導を受けて、準備しておかないといけない。
その音大で教えている先生に教えをこうのが常識で、当たり前にやっておくべき受験対策ということになっている。
でも私は国橋音大の先生に縁がなかったから、全然国橋音大とは関係のない、地元の岸久保麻衣子先生の指導で受験を準備した。
岸久保先生は実家の近所、神奈川県の逗子に住むピアニストで、私の母がボランティアで演奏会の企画を担当した時、縁ができた。
イタリアのフィレンツェで巨匠ラザール・ベルマンに師事して学んだ岸久保麻衣子先生。
一回につき2時間のレッスンは凝縮されていて、仕上がりの時期に指導されると見違えるように自分の演奏が良くなる。
レッスンの代金は一回あたり一万五千円だった。普段は隔週で、受験が近づいたら毎週レッスンを受けていた。
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