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文学Aはかなり楽しかった。
50代後半くらいに見える、痩せ細って小柄な女性の先生がフランス文学作品を紹介され、複数の解釈を解説される講義だった。毎回短い感想文を提出する。
いつも講義が終わった後に教壇まで行き、解釈の捉え方について質問していたら、一度よかったら教授室に遊びに来てごらんなさい、と誘われた。
部屋番号を教えてもらって、昼休みに伺った。小さな部屋で、天井近くまである本棚に入りきらない本が机周辺にも溢れかえるなかに一人座っておられて、穏やかに歓迎してくださった。
「水沢さんがいつも目を輝かせて聞いてくれるのがよく分かって、すごく嬉しいの」
先生はゆっくりと噛み締めるように仰った。
講義でね、学生の発表を一度やってみたいと思ってたの。水沢さんだったらできると思うから、やってみない?
……文学で発表と聞いて咄嗟に思い浮かんだのは、浪人時期に読んだフランソワーズ・サガンの小説『悲しみよこんにちは』で、フランス出身の作家が書いた小説で読んだことがあるのはおそらくそれだけだった。
「短い発表しかできないかもしれませんが……それでもいいですかね?」
「全然いいわよ! ちょっとでいいの。資料を用意してもらって配布して、みんなの前でちょっと喋るだけで充分よ」
教授室に呼んでくださったこと、お話をしてくれたことが嬉しかった。
二つ返事で快諾とはいかなかったけど、誇らしいような気持ちが勝った。やってみます、と私は答えた。負担とは思わなかった。
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