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選択科目のキーボードハーモニーは二つ履修したけれど、どちらの先生も個性が強く、その個性の様相は大きく異なっていた。
一人はクラシック音楽の知識が異様に豊富な樋口先生だった。
交響曲も歌曲でも何でもピアノで再現され弾きこなし、背景や和声分析などを語りつつ弾くのが止まらない。
特にベートーヴェンの楽曲分析は大きなインパクトがあった。メロディーを構成するモチーフ(動機)が作中のあらゆる箇所に細かく展開されているのを弾いて語り、説明を尽くされる。曲をパズルのようにモチーフで読み解いていく。
動機の展開といえばバッハで、多旋律で作られたフーガを連想する。でも樋口先生にかかると、ベートーヴェンのピアノソナタも動機展開で説明できてしまうのだから凄かった。
そのキーボードハーモニーは小さな教室で教えられたけれど、樋口先生の定位置は教壇ではなくて、教室前方で片隅のグランドピアノにいつも座り、話に熱が入ると立ちあがるのがお決まりだった。
作曲目線で見たベートーヴェンはこんなにも緻密に構成されていて幾何学的なのかと、講義を聞きながら感じ入ったものだった。
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